チーム内協働スタイルにおける世代間ギャップ解消事例:役割分担とオーナーシップの明確化
チーム内協働スタイルにおける世代間ギャップの実態
組織やチームにおいて、世代間のギャップは様々な形で顕在化します。特に、チーム内での協働スタイルや、個々の役割、責任範囲、そして仕事に対するオーナーシップの持ち方に関する期待値のずれは、チームの生産性低下やメンバー間の摩擦を引き起こす要因となり得ます。
例えば、特定の業務における「誰が最終責任を持つのか」「どこまでが自分の役割なのか」といった認識の違いは、タスクの遅延や手戻りを発生させる可能性があります。また、「チームとして柔軟に助け合うべきか」「個々が自分の専門領域を深く追求すべきか」といった協働に対する基本的な考え方の違いも、日々のコミュニケーションやプロジェクト遂行に影響を及ぼします。
本記事では、このようなチーム内協働スタイルにおける世代間ギャップを課題として認識し、具体的な施策によってこれを解消、チームのパフォーマンス向上を実現した事例を紹介します。
事例:役割とオーナーシップに関するギャップを抱えていたチーム
あるサービス開発部門のチームでは、中堅層と若手層の間で、プロジェクトにおける役割分担と個々のオーナーシップの持ち方に対する認識にずれが生じていました。
中堅層は、過去の経験から、プロジェクトの初期段階で各担当者の役割と責任範囲を明確に定義し、その範囲内で各自が責任を持ってタスクを完遂することを重視する傾向にありました。一方、若手層は、状況に応じて柔軟に役割を入れ替えたり、チーム全体で情報共有しながら助け合ったりすることに抵抗がなく、むしろその方が効率的だと考える傾向が見られました。
このギャップの結果、以下のような課題が発生していました。
- タスクの「受け渡し」がスムーズに行われず、非効率な状況が発生する
- 誰が最終的な意思決定者・責任者なのか曖昧になり、課題が放置される
- 個々の貢献範囲に対する認識がずれ、相互に不満を感じる
- 新しい技術や手法の導入において、どちらかの世代が「自分の領域ではない」と感じて消極的になる
チーム全体の連携が損なわれ、プロジェクトの進行にも影響が出始めていました。
世代間ギャップ解消に向けた施策:役割とオーナーシップの再定義
この課題に対し、部門の人事企画担当とチームリーダーは連携し、以下の施策を実施しました。
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ギャップの見える化と対話の機会設定:
- まず、匿名でのアンケートや個別ヒアリングを通じて、チームメンバーそれぞれの「理想とするチームでの働き方」「役割や責任に対する考え方」「オーナーシップとは何か」についての認識を収集しました。
- その結果をチーム全体にフィードバックし、世代による傾向があることを率直に共有しました。
- その後、安全な場で率直に意見を交換できるよう、ファシリテーターを立てたワークショップを実施。それぞれの価値観や考え方の背景にある経験や期待を語り合い、相互理解を深める機会を設けました。
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「役割記述書」のアップデートと共有:
- 従来の画一的な役割記述書を見直し、各職務やプロジェクトにおける「期待されるアウトプット」「意思決定権限」「他者との連携頻度」などをより具体的に記述する形式に変更しました。
- 特に、若手層が重視する「柔軟な連携」や「情報共有」の重要性も盛り込み、形式的な「分担」だけでなく、状況に応じた「協働」も推奨される文化を醸成することを目指しました。
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プロジェクト開始時の「キックオフミーティング」における役割・責任範囲の明確化強化:
- 各プロジェクトの開始時に、必ずチーム全体でプロジェクトの目的、目標、そして各メンバーの「主担当(Primary)」「副担当(Secondary)」「情報共有先(Informed)」「相談相手(Consulted)」といった役割と責任範囲(RACIマトリックス等も活用)を明確に定義し、合意形成を図るプロセスを導入しました。
- これにより、「誰が何をどこまでやるのか」という共通認識を持った上でプロジェクトを開始できるようにしました。
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定期的なチーム振り返り(レトロスペクティブ)の実施:
- プロジェクトの節目や定期的に、チームとしての働き方、役割分担の適切さ、オーナーシップの発揮度合いなどについて振り返る時間を設けました。
- ここで生じた課題や懸念をオープンに話し合い、必要に応じて役割や進め方を柔軟に見直す機会としました。
施策導入による効果
これらの施策を継続的に実施した結果、チームには以下のようなポジティブな変化が見られました。
- コミュニケーションの円滑化: 役割や期待値の認識が一致したことで、タスクの受け渡しや連携時の迷いが減少し、コミュニケーションがスムーズになりました。
- 責任の所在明確化と自律性の向上: 各自の責任範囲が明確になったことで、「誰かがやるだろう」という状況が減り、メンバー一人ひとりが自分の担当領域に対するオーナーシップを持って主体的に取り組む意識が高まりました。一方で、必要に応じた相互サポートも維持されました。
- 相互理解と尊重: 世代間の働き方に対する考え方の違いを理解し、互いの強みやアプローチを尊重する文化が醸成されました。
- チームパフォーマンスの向上: 結果として、プロジェクトの遅延が減少し、チーム全体の生産性が向上しました。メンバー間の心理的安全性も高まり、活発な意見交換が行われるようになりました。
特に、最初の「ギャップの見える化と対話」が、その後の施策の効果を最大化する基盤となった点が重要です。
事例から得られる学び
本事例から、人事企画担当や組織のリーダーが学ぶべき点はいくつかあります。
- ギャップの「見える化」が第一歩: 漠然とした「なんか合わない」という感覚を放置せず、具体的に何について、どのような認識のずれがあるのかをデータや対話を通じて明らかにすることが、全ての始まりとなります。
- 「正解」はなく、チームごとの最適解を探る: どちらかの世代の働き方が「正しい」のではなく、チームの状況や目的に合わせて、どのような協働スタイルが最も効果的かを共に考え、合意形成を図るプロセスが重要です。
- 期待値と役割の明確化は継続的な取り組み: 一度定義すれば終わりではなく、プロジェクトやメンバー構成の変化に合わせて定期的に見直し、共有することが不可欠です。特に、オーナーシップは意識の問題でもあるため、単なるルール作りにとどまらず、文化として根付かせるための継続的な働きかけが必要です。
- 対話の機会設計の重要性: 安全な場で、世代間の働く価値観や背景にある考え方について率直に語り合う機会を設けることが、相互理解を深め、心理的安全性を高める上で極めて有効です。
まとめ
チーム内協働スタイル、特に役割分担やオーナーシップに関する世代間ギャップは、組織のパフォーマンスに直接影響する重要な課題です。本事例のように、ギャップを具体的に把握し、期待値や責任範囲を明確にするための対話と仕組みづくりを組み合わせることで、世代を超えた円滑な協働を実現し、チームの力を最大限に引き出すことが可能となります。自社のチームで同様の課題を感じている場合、まずは対話を通じてギャップの根源を探り、役割と責任の明確化に向けた具体的な一歩を踏み出すことが推奨されます。