チームビルディング・懇親会への意識ギャップ解消事例:多世代が納得する参加型イベント設計
チームビルディング・懇親会への意識ギャップとその影響
組織における世代間ギャップは、業務遂行やコミュニケーションだけでなく、チームビルディングを目的とした非公式な集まり、例えば懇親会や社内イベントへの参加意識にも現れることがあります。特定の世代にとっては当たり前であった「仕事仲間との非公式な交流」が、別の世代にとっては負担やプライベートの時間を削る行為と捉えられる場合、これは組織の一体感や従業員エンゲージメントに影響を及ぼす課題となります。
このような意識の差は、相互理解の不足、一部従業員の孤立感、そして最終的には組織全体のパフォーマンス低下や離職に繋がる可能性も秘めています。人事企画部門としては、多様な価値観を持つ従業員が共に心地よく働き、チームとして機能するための環境整備が求められます。本記事では、この非公式な交流に関する世代間ギャップを解消し、組織エンゲージメントを高めた事例をご紹介します。
事例企業の背景と課題
あるサービス業のA社では、以前は全社懇親会や部署単位での飲み会が活発に行われていました。しかし、近年、若手社員を中心にこうしたイベントへの参加率が低下傾向にあり、特に定時後の参加を億劫に感じる声が多く聞かれるようになりました。一方、中堅層以上の社員からは「昔に比べて交流が減り、互いの人となりが分からず壁を感じる」「業務以外の情報交換が減ってしまった」といった意見が出ており、世代間で非公式な交流に対する意識に顕著なギャップが生じていました。
このギャップが原因で、部署内やチーム内のコミュニケーションがぎこちなくなり、心理的安全性が低下しているのではないかという懸念が人事部内で高まりました。社員アンケートやヒアリングを実施した結果、若手層は「参加必須のような雰囲気が苦手」「プライベートの時間を重視したい」「交流するなら共通の趣味などに関することの方が気が楽」といった意見が多く、ベテラン層は「情報交換や親睦を深める重要な機会」「会社への帰属意識を高める場」と捉えていることが明らかになりました。この課題に対し、A社は多世代が納得し、積極的に参加できるような非公式交流のあり方を模索する必要に迫られました。
ギャップ解消に向けた具体的な施策
A社は、非公式な交流に関する世代間ギャップを解消するため、以下の施策を実施しました。
- 実態とニーズの丁寧な把握: 全社員向けの大規模アンケートに加え、異なる世代、部署、職種の代表者を集めた複数回のグループインタビューを実施しました。これにより、単なる参加率だけでなく、参加しない理由、参加したいと思うイベント形式、交流に期待することなど、多様なニーズや意識の背景を深く理解することに努めました。
- 社員有志による企画チームの発足: 人事部主導ではなく、若手からベテランまで幅広い世代の社員からなる「コミュニケーション活性化プロジェクトチーム」を立ち上げました。このチームに企画・運営を委ねることで、特定の世代の価値観に偏らない、多様な視点を取り入れたアイデアを生み出す土壌を作りました。
- イベント形式の多様化と選択肢の提供:
- 従来の全社懇親会は形式を見直し、堅苦しさをなくし、自由な交流時間を重視したカジュアルなものへと変更しました。また、開催頻度を調整し、参加しやすい曜日や時間帯を考慮しました。
- 部署単位での飲食費補助を拡充し、夜の飲み会だけでなく、業務時間内のランチミーティングや短時間でのカフェ交流など、多様な形式での開催を推奨しました。
- 社内サークル活動への補助を大幅に増額し、スポーツ、文化活動、地域貢献など、共通の趣味や関心を通じた自然な交流を後押ししました。
- 地理的な制約や時間的な制約がある社員向けに、オンラインでのカジュアルな交流イベント(例: オンラインランチ会、特定のテーマについて語るバーチャル座談会など)を定期的に開催しました。
- 参加しやすい雰囲気作りと情報提供: 各イベントの目的や内容を事前に明確に伝え、「参加推奨ではあるが、強制ではない」というメッセージを丁寧に発信しました。また、参加メリット(例: 他部署の人とのネットワーク構築、新しい視点の獲得など)を具体的に示す工夫を行いました。特に参加率が低かった層に対しては、上司やメンターを通じて個別に参加を促すなど、きめ細やかな配慮を行いました。
施策による結果と効果
これらの多角的な施策の結果、A社では非公式な交流に対する意識や参加率に変化が見られました。
- 全社懇親会や部署飲み会への参加率は維持または微増にとどまりましたが、ランチ交流や社内サークル活動、オンラインイベントなど、提供された多様な交流機会への参加者が着実に増加しました。
- 特にこれまで非公式イベントへの参加に消極的だった若手社員が、自身の興味や都合に合ったイベントには積極的に参加する傾向が強まりました。
- これらの交流を通じて、部署内だけでなく部署を超えた世代間のコミュニケーションが増加し、互いの業務や価値観に対する理解が深まりました。
- 社内エンゲージメントサーベイにおいて、「チームの一体感」「他部署との連携」に関する項目で肯定的な回答の割合が増加しました。
- 社員からの「会社に自分の居場所があると感じる」「上司や同僚との心理的な距離が縮まり、相談しやすくなった」といった声が多く聞かれるようになり、心理的安全性の向上に繋がったと評価されています。
全ての社員が全てのイベントに参加するわけではありませんでしたが、「自分の参加したい形式の交流がある」「会社が多様な交流を認めている」と感じられるようになったことが、全体の満足度やエンゲージメント向上に貢献したと考えられます。
事例から得られる学びと示唆
A社の事例から、非公式な交流に関する世代間ギャップ解消に向けて、いくつかの重要な学びが得られます。
第一に、世代によって非公式な交流に求めるものや参加へのハードルが異なることを認識し、その多様なニーズを正確に把握することが不可欠です。画一的なイベント開催では、一部の層にしか響かず、ギャップが解消されないままとなる可能性が高いでしょう。
第二に、企画段階から従業員を巻き込み、特に多様な世代の意見を反映させる体制を構築することが有効です。社員自身が「自分たちのための企画」と感じることで、主体的な参加や運営への協力が期待できます。
第三に、「参加すべきもの」として強要するのではなく、「参加したいと思える多様な選択肢」を提供することが重要です。個々の価値観やライフスタイルを尊重し、柔軟な参加形態を認めることで、心理的な抵抗感を減らし、より多くの社員が自分にとって心地よい形で交流に参加できるようになります。
最後に、非公式な交流は、単なるレクリエーションではなく、組織のコミュニケーション活性化、相互理解の促進、心理的安全性の向上、ひいてはエンゲージメントや生産性向上に繋がる重要な要素として位置づけるべきです。本事例が、貴社における世代間ギャップ解消と組織エンゲージメント向上に向けた施策立案の参考となれば幸いです。