目標達成への「努力・根性」意識ギャップ解消事例:多世代が納得する成果追求アプローチ
目標達成に向けた姿勢に見られる世代間ギャップ
組織やチームが掲げる目標を達成するためには、メンバー一人ひとりの目標に対する意識と行動が重要です。しかしながら、世代によって目標達成に向けた「努力」や「根性」といった、やや精神論的な側面を含む価値観にギャップが見られることがあります。
例えば、バブル期やそれ以前の世代では、「目標達成のためには多少の無理や犠牲も厭わない」「困難な状況でも粘り強くやり抜くことが美徳」といった価値観が比較的強く共有されていたかもしれません。一方で、デジタルネイティブ世代に代表される若い世代では、効率性やスマートさを重視し、不要な非効率な努力を避け、ワークライフバランスを保ちながら成果を出すことを当然と考える傾向があります。
これらの価値観の違いは、目標設定のプロセス、進捗管理、困難な状況での対応、そして最終的な成果評価において、多世代間の摩擦や相互不信を生む原因となることがあります。ベテラン社員は若手の「努力不足」を感じ、若手社員はベテランの「非効率な働き方」に疑問を持つ、といった状況です。
このような「努力・根性」に対する意識ギャップは、チームの連携を阻害し、目標達成に向けた一体感を損なう可能性があります。本稿では、この世代間ギャップを乗り越え、多世代が納得感を持って共に目標を追求できる組織文化を醸成した事例を紹介します。
事例企業の挑戦:非効率な「努力」への疑問と目標への温度差
あるサービス業の企業では、全社的にストレッチ目標を掲げ、達成に向けた取り組みを強化していました。しかし、目標達成へのアプローチにおいて、特に現場レベルで世代間の意識ギャップが顕著になりました。
ベテラン層の中には、目標達成のためには長時間労働や休日出勤も辞さないといった姿勢を持つ人が多く、若手層に対して「もっと泥臭くやれ」「根性が足りない」といった指導をすることがありました。一方、若手層からは「非効率なやり方に固執している」「精神論ではなく、もっと具体的な解決策や効率化の提案をしてほしい」といった声が上がり、両者の間で相互理解が進まない状況でした。
これにより、チーム内での目標達成に向けた議論がかみ合わず、建設的な協力体制を築くことが困難になりました。また、若手層のモチベーション低下や離職につながるリスクも懸念されました。人事企画部としては、この「努力・根性」に対する異なる価値観をどのように摺り合わせ、多世代が同じ方向を向いて目標に取り組めるようにするかが喫緊の課題となりました。
ギャップ解消に向けた具体的な施策
この企業が実施した主な施策は以下の通りです。
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「目標」と「プロセス」の定義見直しと共有:
- 単に高い目標を掲げるだけでなく、目標達成に至るまでの「プロセス」や「取るべき具体的な行動」を明確に定義し、言語化しました。
- 「努力」や「根性」といった抽象的な言葉に頼るのではなく、「どのような困難に対して」「どのような工夫をし」「どのような行動を取るのか」を具体的に話し合い、チーム内で共有する機会を設けました。
- 目標設定時には、結果だけでなく、プロセスにおける「チャレンジングな取り組み」「新しい手法の導入」なども評価対象に含めることを明示しました。
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成果とプロセス両面での評価基準の導入:
- 従来の成果偏重の評価制度に加え、目標達成に向けたプロセスにおける個人の「貢献」「工夫」「学び」を評価する仕組みを導入しました。
- 特に、困難な状況下でチームに貢献した行動や、新しい視点や手法を導入して効率化を図った取り組みなどを積極的に評価することで、成果だけでなく、その過程での質の高い「努力」を多角的に捉える文化を醸成しました。
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多世代間での「働く価値観」に関する対話促進:
- 形式的な会議だけでなく、部署横断でのワークショップやメンタリング制度を通じて、世代ごとの働くことに対する価値観、目標達成に対する考え方について率直に話し合う機会を設定しました。
- ベテラン層にはこれまでの経験知に基づく「努力」の重要性を、若手層には効率性や新しい視点の価値を、互いに理解し尊重し合うことの重要性を伝えました。
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効率的な働き方を支援する環境整備と研修:
- 目標達成に向けた手段としての効率化ツール(プロジェクト管理ツール、情報共有ツールなど)の導入を進め、活用研修を実施しました。
- 単に精神論で「やれ」と言うのではなく、目標達成を支援するための具体的なツールやスキルの習得を促しました。
施策導入後の変化と効果
これらの施策導入後、組織には以下のような変化が見られました。
- 相互理解の深化: ワークショップや対話を通じて、世代ごとの価値観に対する理解が進み、「なぜそう考えるのか」という背景を知ることで、一方的な不満や批判が減少しました。
- 目標達成に向けた共通言語の確立: 目標だけでなくプロセスや具体的な行動を言語化・共有することで、「努力」の意味が個人的な精神論から、チームで合意された「目標に向けた具体的なアクション」へと変化しました。
- 多角的な評価への納得感: 成果だけでなくプロセスも評価されることで、多様な目標達成への貢献が認められるようになり、若手層も含めたメンバー全体のエンゲージメントが向上しました。
- 効率と粘り強さの融合: ベテラン層の粘り強さと、若手層の効率性・新しい視点が組み合わされることで、チーム全体の目標達成力が向上しました。単に長時間働くのではなく、スマートかつ諦めないハイブリッドなアプローチが生まれるようになりました。
結果として、目標達成率は着実に向上し、特に困難な目標に対するチームの一体感と問題解決能力が高まりました。また、若手層の離職率低下にも一定の効果が見られました。
事例から得られる学びと示唆
この事例から、目標達成に向けた「努力・根性」意識の世代間ギャップ解消において、人事企画部が留意すべき点は以下の通りです。
- 価値観の「否定」ではなく「理解」と「言語化」: 世代間の価値観の違いそのものを否定するのではなく、まずは互いの考え方や背景にある経験を理解する機会を設けることが重要です。そして、「努力」や「根性」といった抽象的な言葉が指す具体的な行動や期待される成果を、組織の共通言語として定義し直す必要があります。
- 成果とプロセス両面での評価: 目標達成に向けたプロセスにおける個人の「貢献」「工夫」「学び」を適切に評価することで、多様なアプローチや働き方を認め、多世代のエンゲージメントを高めることができます。成果に至るまでの道のりにも光を当てる文化を醸成することが、一方的な精神論の押し付けを防ぎます。
- 対話と環境整備の組み合わせ: 価値観に関する深い対話を通じて相互理解を促進すると同時に、効率的な働き方を支援するツール導入や研修など、具体的な環境整備を行うことが、精神論に頼らない実践的な目標達成アプローチを後押しします。
目標達成への意識ギャップは、単なる個人の性格の違いではなく、育ってきた時代背景や組織文化によって形成された価値観の違いに起因することが多々あります。これらの違いを理解し、建設的な対話と評価・環境整備を通じて、多世代がそれぞれの強みを活かしながら、共通の目標に向かって協力できる組織を築くことが、持続的な成果創出につながるでしょう。
まとめ
目標達成に向けた「努力」や「根性」といった意識の世代間ギャップは、組織の一体感や成果に影響を及ぼす可能性があります。本事例では、目標とプロセスの定義見直し、成果・プロセス両面での評価、多世代間での対話促進、効率化支援といった施策を通じて、このギャップを乗り越え、多世代が納得感を持って成果を追求できる組織文化を醸成しました。
世代間の異なる価値観は、組織にとっての多様性であり、適切にマネジメントされれば大きな力となります。精神論に頼るのではなく、具体的な行動やプロセスに焦点を当て、多角的な評価と対話を通じて、すべての世代が目標達成に貢献できる環境を整備することが、これからの組織には求められています。