副業・兼業への世代間意識ギャップ解消事例:多様な働き方受容と組織ルールの再構築
副業・兼業への意識ギャップが組織にもたらす課題
近年、働き方改革や個人のキャリア自律意識の高まりを背景に、企業における副業・兼業の容認が進んでいます。しかし、この新しい働き方に対する意識は、世代によって異なる場合があります。若手層は自己成長や収入源の多様化として積極的に捉える傾向がある一方、ミドル・シニア層には「本業への影響」「情報漏洩のリスク」「管理の煩雑さ」といった懸念や、「会社に忠誠を尽くすべき」という従来の価値観が根強く残っていることも少なくありません。
このような世代間の意識ギャップは、組織内で以下のような課題を引き起こす可能性があります。
- 不公平感の醸成: 副業・兼業を希望する社員とそうでない社員、あるいは承認されやすい部署とそうでない部署間で不公平感が生まれる。
- マネジメントの混乱: 管理職が副業・兼業を正しく理解しておらず、適切な判断や勤怠管理ができない。
- 情報共有の滞り: 副業内容や時間をオープンにしづらい雰囲気から、チーム内での情報共有や連携に支障が出る。
- 組織文化の分断: 副業・兼業への賛否を巡り、社員間の価値観の対立が深まる。
これらの課題は、組織全体のエンゲージメント低下や離職リスク増加につながりかねません。ここでは、こうした副業・兼業に関する世代間意識ギャップを解消し、多様な働き方を組織として受容するための取り組み事例をご紹介します。
事例:多世代への丁寧な情報提供と組織ルールの再構築でギャップを解消したメーカー
ある製造業の企業では、政府の方針を受けて副業・兼業を容認する方針を打ち出しました。しかし、制度導入後に一部の若手社員からの申請が増える一方で、ミドル・シニア層からはほとんど申請がなく、「副業なんて考えられない」「会社に隠れて何かしているのではないか」といった声が聞かれるなど、世代間で大きな意識ギャップが顕在化しました。また、管理職からも承認基準や管理方法への戸惑いの声が上がっていました。
この状況に対し、人事企画部は以下の施策を段階的に実施しました。
- 全社的な意識調査の実施: 副業・兼業への関心度、期待、懸念について、匿名でのアンケート調査を実施。世代別の傾向を詳細に分析し、客観的なデータとして可視化しました。これにより、「漠然とした不安」や「誤解」が意識ギャップの大きな要因であることを把握しました。
- 副業・兼業に関する多角的な情報提供:
- 説明会の実施: オンライン・オフラインで複数回実施。制度の目的(社員の多様な成長支援、企業価値向上への還元など)を丁寧に説明。副業・兼業の具体的なメリット・デメリット、会社が守るべきルール(機密保持、競合避止など)について、弁護士の監修も得ながら正確な情報を提供しました。特に、ミドル・シニア層が抱きがちな「業務への支障が出るのでは」「情報漏洩リスクが高いのでは」といった懸念に対し、具体的な対策や過去の他社事例を交えて説明し、不安の払拭に努めました。
- 社内ポータルの活用: よくある質問(FAQ)、申請方法、規程の詳細、他社事例などを集約した特設ページを開設。いつでも誰でも情報にアクセスできるように整備しました。
- 成功事例の共有: 実際に副業・兼業を行っている社員から、どのようにバランスを取っているか、どのようなスキルが本業に活かせているかなどを発表してもらう機会を設けました。これは特に、副業・兼業が「特別なこと」ではなく「現実的な選択肢」であることを示す上で効果的でした。
- 柔軟かつ明確な規程への改定と承認プロセスの見直し:
- 当初はやや厳格すぎた副業・兼業規程を、リスク管理の要点は維持しつつ、従業員の多様な活動を可能な限り支援する方向性で見直しました。許可・不許可の明確な基準を設けるとともに、申請から承認までのリードタイムを短縮し、プロセスを透明化しました。
- 申請書のフォーマットを簡素化し、申請理由や副業内容の記載は必要最低限とし、プライバシーに配慮しました。
- 管理職向けガイドラインと研修: 副業・兼業を希望する部下への適切なアドバイス方法、業務状況の把握方法、リスク管理のポイントなどをまとめたガイドラインを作成。管理職向けの研修を実施し、制度への理解促進とマネジメントスキルの向上を図りました。単に「管理しろ」ではなく、「部下のキャリアを支援する視点も持って関わってほしい」というメッセージを伝えました。
施策の結果と得られた学び
これらの施策の結果、約1年後には副業・兼業の申請者数が約3倍に増加し、申請者の世代構成も多様化しました。ミドル・シニア層からも「これまでの経験を活かせる副業に挑戦したい」「定年後のセカンドキャリアにつながる活動を始めてみたい」といった前向きな声が聞かれるようになりました。
また、副業で得た新しいスキルや知見が、本業での課題解決やアイデア創出につながるケースも見られ、組織全体の活性化にも貢献しました。管理職の制度理解も進み、部下とのコミュニケーションの質が向上したという声も上がりました。
この事例から得られる学びは以下の通りです。
- データに基づいた現状把握の重要性: 意識調査によって世代別の具体的な懸念や期待を把握し、それに基づいた対策を打つことが、効果的なギャップ解消の第一歩となります。
- 丁寧かつ多角的な情報提供: 制度導入の目的、メリット・デメリット、ルールなどを、様々なチャネルを通じて正確かつ分かりやすく伝えることが不可欠です。特に、新しい働き方に対する不安や誤解を抱きやすい層に対しては、根気強く情報を提供し、対話を重ねる必要があります。
- 組織ルールの見直しと柔軟性: 従業員が安心して新しい働き方に挑戦できるよう、規程や承認プロセスを時代に合わせて見直し、過度な制限を避けつつも、リスク管理の要点は押さえるバランスが重要です。
- 管理職の理解とサポート体制: 制度を現場で運用するのは管理職です。管理職が制度を正しく理解し、部下をサポートできる知識・スキルを持つことが、制度浸透の鍵となります。管理職自身も不安や懸念を抱えている場合があるため、その声に耳を傾け、サポートする体制が必要です。
まとめ
副業・兼業のような新しい働き方は、多かれ少なかれ世代間の意識ギャップを生じさせやすいテーマです。しかし、そのギャップを放置せず、組織としてデータに基づいた現状把握を行い、多世代に向けた丁寧な情報提供と対話、そして柔軟かつ明確なルール整備と管理職サポートを行うことで、ギャップを解消し、多様な働き方を組織の力に変えることが可能です。
自社においても、副業・兼業に関する従業員の意識や懸念を正確に把握し、必要に応じて組織ルールやコミュニケーションの方法を見直すことが、より多くの従業員が自身のキャリアを自律的に築き、同時に組織にも貢献できる環境整備につながるでしょう。この事例が、皆様の組織における世代間ギャップ解消の取り組みの一助となれば幸いです。