多世代が心地よい休憩・雑談空間を創る:非公式コミュニケーションにおける世代間意識ギャップ解消事例
組織の非公式コミュニケーションにおける世代間ギャップとその影響
組織における正式な会議や業務報告だけでなく、休憩時間や業務中の気軽な雑談といった非公式なコミュニケーションも、社員間の信頼関係構築や情報共有、心理的安全性の醸成において重要な役割を果たします。しかし、このような非公式な場に対する意識や活用方法は、世代によって異なる場合があります。
例えば、 * 休憩時間をきっちりと取るか、業務の合間に短く済ませるか。 * 休憩室で同僚と積極的に交流するか、一人で静かに過ごしたいか。 * 業務中の雑談を「集中を妨げるもの」と捉えるか、「チームの潤滑油」「偶発的な情報交換の場」と捉えるか。
こうした意識の違いは、意図せず世代間の壁を生み出し、組織全体の連携やエンゲージメントに影響を及ぼす可能性があります。特定世代が非公式な場から疎外感を感じたり、重要な非公式情報が特定のラインで滞留したりすることも考えられます。
人事企画部門としては、こうした非公式なコミュニケーションにおける世代間ギャップが、組織文化や社員満足度に与える影響を見過ごすことはできません。本記事では、この課題に対し具体的な施策を講じた企業の事例をご紹介し、そこから得られる学びを探ります。
事例紹介:非公式コミュニケーション活性化による世代間ギャップ解消への取り組み
あるITサービス企業では、オフィス移転を機に、社員間の非公式な交流が減少しているという課題認識が生まれていました。特に、新しいオフィス環境や働き方の変化(一部リモートワーク導入など)により、以前は自然発生していた世代を超えた雑談や偶発的な情報交換の機会が失われつつある兆候が見られました。社員アンケートや管理職へのヒアリングでも、「休憩時間や業務の合間に、他の部署や世代の社員と話す機会が減った」「休憩室が使いづらいと感じる社員がいる」といった声が挙がっていました。
同社の人事企画部門は、これが世代間の壁をさらに高くし、組織の一体感や心理的安全性を損なう可能性を危惧し、非公式コミュニケーションの活性化と、それを通じた世代間ギャップ解消を目的としたプロジェクトを立ち上げました。
具体的な施策として、以下の取り組みが行われました。
- 意識・ニーズの可視化: 全社員を対象に、休憩時間の過ごし方や業務中の雑談に関する意識、オフィス環境への要望などについて詳細なアンケートを実施。また、各部署・世代の代表者を集めたワークショップを開催し、非公式なコミュニケーションに対する本音や課題感を共有しました。このプロセスを通じて、「静かに集中したいニーズ」「気軽に話したいニーズ」「他部署と交流したいニーズ」など、多様なニーズが存在することが改めて確認されました。
- 休憩・交流スペースの多様化: アンケート結果に基づき、オフィス内の休憩・交流スペースを再設計しました。具体的には、
- 完全に遮音され、一人で静かに過ごせる「集中休憩ブース」の設置。
- 複数のグループが気軽に集まり、飲食や会話を楽しめるオープンな「コミュニケーションラウンジ」の拡張。
- 短時間の立ち話や気分転換に適した「スタンディングハイテーブルエリア」の設置。
- 部署を越えた社員がランダムに座る「シャッフルランチテーブル」の試験導入。
- オンラインでの非公式交流を促すための、社内チャットツールにおける「趣味」「ランチ」「今日の出来事」といった非公式チャンネルの推奨と、利用ガイドライン(業務時間内外の目安など)の提示。
- 意図的な交流機会の創出: 自然発生的な交流だけでなく、意図的に世代や部署を超えた交流機会を設けました。
- 週に一度、特定の時間に全社一斉に5分間の「リフレッシュ&フリーチャットタイム」を設定し、業務と直接関係ない話題で話すことを推奨。
- 月に一度、「クロスジェネレーションコーヒーブレイク」と称し、参加者をランダムにグループ分けしてコーヒーを飲みながら短時間(15-20分)交流する時間を設定。
- 管理職への意識付けと巻き込み: 非公式コミュニケーションの重要性や、管理職が積極的にメンバーに声かけすることの意義について、管理職向け研修や会議で繰り返し共有しました。管理職自身が休憩スペースを積極的に利用したり、オンライン非公式チャンネルに参加したりすることで、社員が利用しやすい雰囲気の醸成に努めました。
施策の結果と効果
これらの施策導入後、同社では以下のような変化が見られました。
- 休憩・交流スペースの利用率向上: 多様なニーズに対応した結果、休憩室全体の利用率が向上しました。特に、以前は特定の世代しか利用していなかったスペースに、幅広い世代の社員が見られるようになりました。
- 世代を超えた交流の増加: シャッフルランチやクロスジェネレーションコーヒーブレイクを通じて、普段業務で関わらない他部署・他世代の社員との会話が増加しました。オンライン非公式チャンネルでも、役職や世代を超えた活発なやり取りが見られるようになりました。
- 心理的安全性の向上: 社員アンケートの結果、「職場でリラックスできると感じるか」「自分の意見を安心して言えるか」といった心理的安全性に関する指標が改善傾向を示しました。気軽に雑談できる関係性が、業務上の心理的ハードルを下げることにつながったと考えられます。
- 非公式な情報共有の活性化: 休憩中や雑談の中で、業務上のヒントや他部署の状況といった非公式な情報が交換される機会が増えました。これにより、部署を越えた連携がスムーズになったり、偶発的なアイデアが生まれたりする効果も見られました。
事例から得られる学びと示唆
この事例からは、非公式なコミュニケーションにおける世代間ギャップ解消に向けて、以下の重要な学びを得ることができます。
- 現状の意識・ニーズの正確な把握: 一方的な施策導入ではなく、まず社員一人ひとりの非公式コミュニケーションに対する意識や、休憩・交流スペースに対するニーズを丁寧に可視化することが出発点となります。アンケートやワークショップは、多様な意見を吸い上げる有効な手段です。
- 「選択肢」と「機会」の提供: 休憩・交流のスタイルは多様であり、すべての社員に同じ方法を強制することはできません。静かに過ごしたい人、積極的に交流したい人、オンラインで繋がりたい人など、様々なニーズに対応できるよう、物理的な環境やツールの選択肢を提供することが重要です。同時に、意図的に交流の「機会」を設けることで、普段関わらない社員同士が自然に会話を始めるきっかけを提供できます。
- 物理的環境と文化・ルールの両面からのアプローチ: ただ休憩室をリフォームするだけでなく、どのような場所を設けるか、どのようなコミュニケーションを推奨するかといった、組織文化や利用ルールに関するメッセージ発信やガイドライン提示も不可欠です。オンラインツールの活用促進も、現代においては重要な要素となります。
- 管理職の役割とコミットメント: 管理職が非公式コミュニケーションの重要性を理解し、自ら実践し、メンバーに声かけをすることで、心理的安全性の高い雰囲気を作ることができます。管理職の積極的な関与は、施策の効果を最大化するために不可欠です。
非公式なコミュニケーションは、ともすれば軽視されがちですが、組織のエンゲージメント、心理的安全性、そして偶発的なイノベーションを促進する上で非常に重要な要素です。世代間ギャップがこうした非公式な場における社員の行動や意識に影響を与えている可能性に目を向け、多様なニーズに応える環境整備や機会創出に取り組むことは、組織の活性化につながる有効なアプローチと言えるでしょう。
まとめ
本記事では、組織内の休憩時間や非公式なコミュニケーションにおける世代間意識ギャップに焦点を当て、これを解消するために物理的環境の多様化、意図的な交流機会の創出、管理職の巻き込みといった包括的なアプローチを講じた企業の成功事例をご紹介しました。
この事例が示すように、非公式な場における世代間ギャップは、社員のエンゲージメントや組織文化に影響を与えうる課題です。単に「雑談を増やそう」と奨励するだけでなく、社員の多様なニーズを理解し、それぞれが心地よく過ごせる、あるいは自然な形で多様な社員と交流できる「選択肢」と「機会」を、物理的・オンラインの両面で提供することが、世代間ギャップを乗り越え、組織全体の活性化につながる重要なポイントとなります。
人事企画部門の皆様におかれましても、ぜひ自社の休憩スペースの利用状況や、非公式なコミュニケーションの状況について、世代間の違いという視点から改めて検証し、多様なニーズに対応するための環境整備や施策を検討されることを推奨いたします。