ギャップ解消事例集

情報セキュリティ意識と情報共有ルールに関する世代間ギャップ解消:リスク低減と共通理解を深めるアプローチ

Tags: 情報セキュリティ, 情報リテラシー, 世代間ギャップ, 従業員教育, リスクマネジメント

情報セキュリティ意識と情報共有ルールにおける世代間ギャップの課題

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速やリモートワークの普及に伴い、情報セキュリティの重要性は一層高まっています。同時に、企業が扱う情報量は増加し、情報共有のスピードと効率性が求められています。しかし、情報セキュリティに対する意識や、適切な情報共有の方法・ルールに関する理解度は、世代間で異なる傾向が見られます。

デジタルデバイスが普及する以前の情報環境で社会人生活を送った世代と、インターネットやスマートフォンの利用が当たり前の環境で育った世代とでは、情報の扱い方やリスクに対する認識にギャップが生じやすいと考えられます。例えば、個人情報の取り扱い、機密情報の共有範囲、フィッシング詐欺への警戒心、SNSでの情報発信の危険性、クラウドサービスの利用ルールなど、様々な側面で意識や行動様式に違いが見られることがあります。

このような世代間のギャップは、意図しない情報漏洩リスクを高めたり、シャドーITの発生を招いたり、あるいは逆に過度な制限による業務効率の低下を引き起こす可能性があります。人事企画部門においては、全従業員の情報セキュリティレベルを底上げし、安全かつ効率的な情報共有文化を醸成するための施策立案が重要な課題となっています。

本記事では、情報セキュリティ意識と情報共有ルールにおける世代間ギャップを解消し、組織全体の情報リテラシー向上とリスク低減に成功した企業の事例を紹介します。

事例:A社の情報セキュリティ意識・情報共有ルールに関する世代間ギャップ解消への取り組み

背景と課題

サービス業を展開するA社では、事業拡大に伴い従業員数が増加し、多様なキャリアを持つ人材が活躍していました。しかし、情報システム部門への問い合わせ内容や、社内アンケートの結果から、世代によって情報セキュリティに関する知識や情報共有ツールの適切な利用方法に対する理解度にばらつきがあることが明らかになりました。

具体的には、以下のような課題が見られました。

これらの課題は、A社の情報セキュリティリスクを高めるだけでなく、スムーズな情報連携を阻害し、業務効率の低下を招く懸念がありました。人事企画部門は、情報システム部門と連携し、全従業員の情報リテラシー向上と、共通の情報セキュリティ・情報共有文化の醸成を目指すこととなりました。

具体的な施策と取り組み

A社が実施した主な施策は以下の通りです。

  1. 多世代向けカスタマイズ研修プログラムの実施:

    • 画一的な研修ではなく、世代ごとの情報リテラシーの特性や関心事を考慮した複数バージョンの研修コンテンツを作成しました。
    • 例:
      • 若手向け: SNS利用時のリスク、情報発信の注意点、新しいツールの効率的な活用法と潜在リスク。クイズ形式やグループワークを取り入れ、インタラクティブな形式を採用しました。
      • 中堅・ベテラン向け: フィッシング詐欺・標的型攻撃メールの手口、パスワード管理の重要性、情報の重要度に応じた共有方法、新しいツールの必要性とメリット。実践的な操作演習や、実際のインシデント事例を交えた解説を行いました。
    • 講師は一方的な説明ではなく、参加者の疑問や不安に寄り添う対話形式を重視しました。
  2. 「情報共有スタンダード」ガイドラインの策定と浸透:

    • 情報システム部門と連携し、全従業員が共通認識を持つべき情報セキュリティ・情報共有に関する基本的なルールを、専門用語を避け、平易な言葉でまとめた「情報共有スタンダード」を策定しました。
    • このガイドラインには、「どこまで情報を共有して良いか」「どのツールをどのような目的で使うか」「パスワードの管理方法」「不審なメールへの対応」などが具体的に記載されています。
    • ガイドラインは社内ポータルサイトで常に参照できるようにし、内容に関する疑問点を気軽に質問できる窓口を設けました。
  3. 異世代間での情報共有に関するワークショップ実施:

    • 部署横断で、様々な世代の従業員が参加するワークショップを実施しました。
    • ワークショップでは、「情報共有で困っていること」「過去に経験したセキュリティインシデント(軽微なものでも)」「理想の情報共有のあり方」などをテーマに自由に意見交換を行いました。
    • このワークショップを通じて、世代ごとの情報共有に関する価値観や困りごとの違いを互いに理解し、共通の解決策を話し合う機会となりました。
  4. ロールモデルとなる従業員の発掘と啓発活動:

    • 情報システム部門や各部署の協力を得て、情報セキュリティ意識が高く、新しいツールの活用にも積極的な従業員を「情報セキュリティ・アンバサダー」として任命しました。
    • アンバサダーは、部署内の情報共有に関する相談役となったり、週次の簡単な情報セキュリティに関するTipsを社内SNSで発信するなどの啓発活動を行いました。

結果と効果

これらの施策の結果、A社では以下のような効果が見られました。

これらの効果により、A社は情報セキュリティリスクを低減し、より安全かつ効率的な情報共有体制を確立することができました。

事例から得られる学びと示唆

A社の事例から、情報セキュリティ意識と情報共有ルールに関する世代間ギャップ解消において、以下の点が重要であることが示唆されます。

  1. 一方的ではなく、対話と相互理解を重視する: 単にルールや知識を押し付けるのではなく、なぜそれが必要なのか、どのようなリスクがあるのかを、世代ごとの関心事や経験に寄り添って伝えることが重要です。ワークショップのように、互いの考えを共有し合う機会は、一方通行の研修よりも理解と納得を深める効果があります。
  2. 実践的で多様なアプローチを取り入れる: 座学だけでなく、具体的なツールを使った演習や、実際のインシデント事例の分析など、実践的な内容を取り入れることで、知識を自分事として捉えやすくなります。また、研修形式も世代や内容に応じて柔軟に変えることで、より多くの従業員に効果的に情報を伝えることができます。
  3. ルールを明確にし、参照しやすくする: 情報共有に関する基本的なルールを分かりやすく明文化し、従業員が必要な時にいつでも参照できる状態にすることは、共通理解を醸成する上で不可欠です。複雑な規定集ではなく、実践的なガイドラインとして提供することが効果的です。
  4. 啓発活動を継続的に行う: 情報セキュリティの脅威は常に変化し、新しいツールも登場します。一度の研修で終わらせず、定期的な情報発信やロールモデルの活用など、継続的な啓発活動を通じて、従業員の意識を維持・向上させることが重要です。
  5. リスク管理と効率性のバランス: セキュリティを強化するあまり、情報共有が非効率になったり、業務が滞ったりしないよう、リスク低減とビジネスのスピード・効率性のバランスを考慮した施策設計が必要です。

まとめ

情報セキュリティ意識と情報共有ルールに関する世代間ギャップは、現代組織にとって避けては通れない課題の一つです。このギャップを放置することは、情報漏洩リスクの増加だけでなく、組織内の連携阻害や業務効率の低下を招く可能性があります。

A社の事例は、世代ごとの特性を理解し、一方的な指導ではなく、対話と相互理解を重視した多角的なアプローチが、組織全体の情報リテラシー向上とリスク低減に有効であることを示しています。人事企画部門としては、情報システム部門と連携しつつ、従業員一人ひとりが情報セキュリティの重要性を認識し、適切に情報共有を行うための環境整備と継続的な啓発活動に取り組むことが、持続的な組織運営においてますます重要になると言えるでしょう。