エンゲージメントサーベイへの世代間受け止めギャップ解消事例:結果共有と改善への多世代巻き込みアプローチ
エンゲージメントサーベイへの世代間受け止めギャップ解消事例:結果共有と改善への多世代巻き込みアプローチ
組織の健康状態を測る重要な指標であるエンゲージメントサーベイ。多くの企業で定期的に実施されていますが、その結果に対する受け止め方や、改善に向けた意識には、しばしば世代間のギャップが見られます。
このギャップは、サーベイが本来持つ組織改善の機会を十分に活かせない要因となり得ます。特定の世代が結果に無関心であったり、他の世代は改善を強く期待するものの具体的な行動に繋がらなかったりといった状況は、人事企画部門が直面する課題の一つです。
本記事では、あるサービス業の企業における、エンゲージメントサーベイの結果共有と改善プロセスにおける世代間ギャップを解消し、多世代を巻き込んだ取り組みに成功した事例をご紹介します。
事例企業の背景と課題
今回ご紹介する企業は、従業員数約500名規模のサービス業を展開しており、若手からベテランまで幅広い世代が活躍しています。人事部門では数年前からエンゲージメントサーベイを導入し、組織全体のエンゲージメント向上を目指していました。
しかし、サーベイの結果を全社に共有しても、以下のような世代間ギャップに起因する課題が見られるようになりました。
- 若手層: サーベイ結果自体に懐疑的であったり、「どうせ何も変わらないだろう」という諦めから、結果の共有会への参加率が低く、改善活動への関心も薄い傾向が見られました。個別のフィードバックやキャリアへの期待に対する回答は高いものの、組織全体の課題への関与意欲が低いという特徴がありました。
- 中堅・ベテラン層: 過去の組織変革の経験から、サーベイ結果を受け入れつつも、大規模な変化への抵抗感や、「これまでのやり方で問題ない」といった現状維持志向が見られました。また、日々の業務に追われ、改善活動に積極的に時間を割くことが難しいという声もありました。管理職層では、結果を部下にどう伝え、改善に繋げるかに悩むケースが見られました。
- 共通の課題: サーベイ結果が数値やグラフで一方的に共有されるだけで、自分たちの声がどのように反映されるのか、具体的な改善活動がどのように進むのかが見えにくいという不透明感が、どの世代からも見受けられました。結果として、サーベイが単なる「調査イベント」で終わってしまい、組織改善の具体的なアクションに繋がりにくい状況でした。
人事企画部としては、サーベイ結果を組織改善の推進力とするためには、これらの世代間の意識ギャップを解消し、全従業員が「自分ごと」として結果を受け止め、改善活動に参画する仕組みが必要だと認識していました。
具体的な施策・取り組み
この企業では、エンゲージメントサーベイの結果を組織改善に最大限活用するため、以下の多角的なアプローチを実施しました。
-
結果共有方法の多様化と対話の促進:
- 全社一律の報告会に加え、部署別・チーム別の詳細な結果共有会を実施しました。ここでは、単に結果を伝えるだけでなく、なぜこのような結果になったのか、チーム内で感じている課題は何かといった「対話」の時間を設けました。
- 特に若手層に対しては、デジタルツールを活用したインタラクティブな結果共有や、匿名での意見交換ができるオンラインセッションを導入しました。
- 管理職向けには、結果の読み解き方、部下との対話の進め方に関する研修を実施し、心理的安全性を確保した上での率直な意見交換を促しました。
-
改善アクションへのボトムアップと透明性の向上:
- サーベイ結果に基づき、各部署・チームで取り組むべき改善テーマを話し合い、具体的なアクションプランを策定する時間を公式に設けました。これにより、現場の声を直接反映した改善活動が可能になりました。
- 特に、若手層からの「改善への期待が薄い」という課題に対し、ボトムアップで改善提案を募る仕組みを導入しました。小さな改善事例でも積極的に共有し、担当部署や経営層がフィードバックや対応状況をオープンに伝える場を設けました。
- 全社的な改善テーマについては、進捗状況を社内ポータルサイト等で定期的に発信するなど、プロセス全体の透明性を高めました。
-
世代間の相互理解を深める機会の創出:
- サーベイ結果で顕著に見られた世代間の意識差(例: 働きがい、キャリア観、コミュニケーションスタイルなど)について、異世代交流ワークショップを実施しました。
- ワークショップでは、各世代がどのような価値観を持っているのかを互いに発表し合い、なぜサーベイ結果の受け止め方が異なるのかを理解する機会としました。「〇〇世代だからこう考える」という固定観念ではなく、多様なバックグラウンドや経験が影響していることを共通認識としました。
結果・効果
これらの施策を実施した結果、エンゲージメントサーベイを通じた組織改善活動において、複数のポジティブな変化が見られました。
- サーベイ結果への関与意欲向上: 特に若手層において、一方的な報告会ではなく、対話形式の結果共有やボトムアップの改善提案制度が導入されたことで、「自分たちの声が聞いてもらえるかもしれない」という期待感が生まれ、結果共有会への参加率やその後の改善活動への関心が高まりました。
- 具体的な改善活動の活性化: 各チーム・部署での対話を通じて、自分たちで解決できる身近な課題に対する改善活動が自発的に始まりました。小さな成功事例が共有されることで、他のチームにも良い影響が波及しました。
- 世代間の相互理解促進: 異世代交流ワークショップを通じて、互いの価値観や仕事に対する考え方の違いを理解し、尊重する姿勢が醸成されました。これは、日々の業務におけるコミュニケーションの円滑化にも繋がり、サーベイ結果だけでなく、組織全体のエンゲージメントスコアにも緩やかながら改善が見られました。
- 人事企画部の役割の変化: 人事企画部は、単にサーベイを実施・集計するだけでなく、結果を基にした現場の対話や改善活動をファシリテーションする役割へと変化しました。各世代の声を丁寧に拾い上げ、組織全体の動きへと繋げるハブとしての機能が強化されました。
事例から得られる学び・示唆
この事例から、エンゲージメントサーベイの結果を組織改善に活かす上で、特に世代間ギャップを解消するために重要な学びが得られます。
- 一方通行の「報告」から「対話」へ: サーベイ結果を単に発表するだけでなく、なぜその結果になったのか、現場で何を感じているのかといった対話を重視することが不可欠です。世代によって効果的な対話の方法や場が異なる場合があるため、多様なアプローチを検討する必要があります。
- 改善プロセスの「見える化」と「巻き込み」: サーベイは調査自体が目的ではなく、その後の改善に繋げることが重要です。従業員が「自分たちの声がどう扱われ、何が変わるのか」を明確に把握できるよう、改善活動のプロセスや進捗を透明化し、各世代が何らかの形で関与できる仕組みを設けることが重要です。ボトムアップでの改善提案制度などは、特に若手層のオーナーシップを育む上で有効な手段となり得ます。
- 世代間の「違い」を理解し合う機会の提供: サーベイ結果で浮き彫りになった世代間の意識や価値観の違いを、「どちらが正しい・間違い」と判断するのではなく、「そういう考え方もあるのだ」と互いに理解し合う機会を意図的に設けることが、不要な対立を防ぎ、建設的な議論を促します。
- 人事企画部のファシリテーション能力: 人事企画部は、サーベイの企画・実施・集計にとどまらず、結果を基にした組織内の対話や改善活動を促進するファシリテーターとしての役割を強化する必要があります。各世代の特性を理解し、それぞれのニーズに合わせたコミュニケーション戦略を立てることが求められます。
まとめ
エンゲージメントサーベイは、組織の抱える課題を客観的に把握する強力なツールです。しかし、その結果に対する世代間の受け止め方や、改善への期待・関心にはギャップが生じやすく、これが組織改善を停滞させる要因となり得ます。
本事例では、結果共有方法の多様化、改善アクションへのボトムアップと透明性の向上、そして世代間の相互理解促進といった多角的なアプローチを通じて、このギャップを解消し、サーベイを組織全体のエンゲージメント向上と継続的な改善活動に繋げることができました。
人事企画部のマネージャー層が、エンゲージメントサーベイを組織改善に最大限に活かすためには、世代間の意識の違いを深く理解し、一方的な情報提供に留まらず、対話を重視し、全従業員が改善活動に「自分ごと」として関われるような仕組みをデザインすることが鍵となります。多様な世代がそれぞれの立場から組織の未来を考え、行動を起こせるような土壌を育むことが、エンゲージメント向上と持続的な組織成長に繋がるでしょう。