ギャップ解消事例集

社内コミュニケーションにおける絵文字・スタンプの使用に関する世代間ギャップ解消事例:ツールの特性理解と共通ルールの策定アプローチ

Tags: コミュニケーション, 世代間ギャップ, 組織文化, 社内ツール, ダイバーシティ

社内コミュニケーションツールにおける絵文字・スタンプ利用の現状と課題

近年、多くの企業で社内コミュニケーションツールが導入され、従業員間の情報共有や連携のスピードが向上しています。その中で、テキストメッセージに加えて絵文字やスタンプを使用することが一般的になってきました。絵文字やスタンプは、テキストだけでは伝わりにくい感情やニュアンスを補足したり、メッセージを短縮したりする上で便利な機能です。

しかしながら、これらの非言語コミュニケーション要素に対する認識や使い方は、世代によって異なる傾向が見られます。特定の世代では感情表現や親密さを増す手段として積極的に使用される一方、別の世代では「ビジネスに不適切」「メッセージの内容が分かりにくくなる」「ふざけているように見える」といった抵抗感や戸惑いが生じることがあります。このような意識の違いは、社内コミュニケーションにおける軽微な摩擦や誤解の原因となり、部署やチーム内の円滑な情報伝達を阻害する可能性を含んでいます。

人事企画部門としては、多様な世代が共に働く組織において、こうした日常的なコミュニケーションの齟齬を見過ごすことはできません。ツールの利用が進むにつれて顕在化する可能性のある世代間ギャップに対し、組織全体のコミュニケーションの質を維持・向上させるための proactive なアプローチが求められています。

事例企業における課題と取り組み

あるサービス業の企業(従業員数約500名)では、全社的にチャットツールを導入していましたが、一部の部署やチーム内で絵文字・スタンプの使用に関する摩擦が増加傾向にありました。特に、異なる世代のメンバーが混在するプロジェクトチームや、マネージャーと部下の間でのコミュニケーションにおいて、「あの絵文字はどういう意味か」「なぜ真剣な話にスタンプで返信するのか」といった戸惑いや不満が聞かれるようになりました。

この企業の人事企画部は、チャットツールの利用状況に関する従業員アンケートや、現場の管理職からのヒアリングを通じて課題を特定しました。その結果、問題の根源は「絵文字・スタンプに対する世代間の価値観や解釈の違い」および「ツール機能の意図や適切な使用方法に関する共通認識の欠如」にあると分析しました。

この課題に対し、同社は以下の施策を講じました。

  1. 世代間の意識に関する実態調査と共有:
    • 絵文字・スタンプの使用頻度、使用目的、使用に対する感情(ポジティブ、ネガティブ、特に意識しないなど)に関する匿名の全社アンケートを実施しました。
    • アンケート結果を分析し、世代ごとの傾向や具体的な意見を社内報や説明会で共有しました。これにより、「自分だけがそう感じているのではない」という安心感や、他世代の意識を知る機会を提供しました。
  2. 絵文字・スタンプ利用に関する簡易ガイドラインの策定:
    • アンケート結果や現場の意見を参考に、人事企画部主導で絵文字・スタンプ利用に関する簡易的なガイドライン案を作成しました。
    • ガイドラインには、「肯定的な反応を示す」「感謝を伝える」「感情やニュアンスを補足する」といった推奨される使用目的や、誤解を招きやすい、あるいはビジネスシーンで避けるべきとされる絵文字・スタンプの例、過度な使用を控えるといった注意点が盛り込まれました。
    • ガイドライン案は一方的に展開するのではなく、各部署の代表者や世代ミックスの従業員によるワークショップで議論し、フィードバックを反映させるプロセスを経ました。これにより、多様な視点を取り入れ、従業員の納得感を高めました。
  3. ツールの特性と機能に関する説明会:
    • チャットツールベンダーと連携し、絵文字やスタンプが本来持つ「素早い感情表現」「リアクション機能によるメッセージの集約」「コミュニケーション活性化」といった機能的メリットや、開発側の意図に関する説明会を実施しました。ツールの技術的な側面や効率性向上に焦点を当てることで、実務的な観点からの理解促進を図りました。
  4. 対話と相互理解を促す機会の設定:
    • 部署やチームごとに、絵文字・スタンプだけでなく、チャットツール全体の「使い方のルール」について話し合う時間を設けました。これは、ガイドラインを一方的に押し付けるのではなく、各チームの特性に合わせて運用方法を柔軟に調整するためのものです。
    • 異世代間のランチミーティングや、テーマを決めたオンライン雑談会などを不定期に実施し、非公式な場での相互理解を深める機会を設けました。

施策の結果と効果

これらの取り組みの結果、同社では絵文字・スタンプ利用に関するコミュニケーション摩擦が明らかに減少しました。

完全にギャップが解消されたわけではありませんが、少なくとも絵文字・スタンプの使用が原因で深刻な対立や誤解が生じるケースはほぼなくなり、互いの使い方に対する一定の許容度が醸成されました。

この事例から得られる学び

本事例から、人事企画部門が世代間ギャップに起因するコミュニケーション課題に取り組む上で、いくつかの重要な学びが得られます。

  1. 課題の可視化と共有: 漠然とした「なんとなく使いにくい」「誤解がある」といった感覚を、アンケートやヒアリングを通じて具体的なデータや意見として収集・分析し、全社的に共有することの重要性。これにより、課題認識の共通化と、改善に向けた土壌作りができます。
  2. 一方的なルールではなく、対話を通じた合意形成: 絵文字・スタンプの使用ガイドラインのようなものは、トップダウンで一方的に定めるのではなく、現場の従業員、特にギャップを感じている当事者を巻き込み、対話を通じて共に作り上げていくプロセスが不可欠です。多様な意見を聞き、なぜそのルールが必要なのか、どのような使い方が望ましいのかを議論することで、従業員の納得感と主体的な順守意識を高めることができます。
  3. ツールの機能と意図の理解促進: 絵文字やスタンプといったツールの特定の機能が、どのような意図やメリット(例: 効率化、迅速なリアクション)を持っているのかを、技術的・機能的な側面から説明することも有効です。これにより、感情論だけでなく、実務上のメリットとしてツールの使い方を捉え直す機会を提供できます。
  4. 非公式な対話機会の設定: 公式な会議や研修だけでなく、ランチミーティングや雑談会といった非公式な場での異世代間の交流は、相互理解を深め、心理的な距離を縮める上で非常に有効です。こうした場で、お互いの価値観やコミュニケーションスタイルに対する理解が進みます。
  5. 完璧を目指さない柔軟な運用: 世代間ギャップに起因する問題は、単一の正解や完璧な解決策が存在しない場合が多いです。全ての従業員が完全に同じようにツールを使うようになることは現実的ではありません。重要なのは、最低限の共通ルールやマナーを定めること、そして互いの違いを認め、尊重し合いながら柔軟にコミュニケーションを取る姿勢を組織文化として醸成していくことです。

まとめ

社内コミュニケーションツールにおける絵文字・スタンプの利用に関する世代間ギャップは、一見些細な問題に見えるかもしれませんが、組織内の心理的な壁やコミュニケーション効率の低下に繋がりかねない課題です。

本事例のように、実態調査による課題の明確化、関係者を巻き込んだガイドライン策定プロセス、ツールの機能理解促進、そして対話機会の設定といった多角的なアプローチを通じて、世代間の相互理解を深め、多様なコミュニケーションスタイルが共存できる環境を整備することが可能です。

人事企画部門の皆様にとって、このような事例は、自社におけるコミュニケーションツールの利用状況や従業員間のやり取りにおける潜在的なギャップに気づき、具体的な施策を検討する上での参考になるものと考えられます。組織全体のエンゲージメント向上と、心理的安全性の高い職場環境構築のためにも、日常的なコミュニケーションに潜むギャップに光を当て、対話を通じた解消に取り組むことが推奨されます。