日常の承認・称賛への世代間意識ギャップ解消事例:求める・与える形の違いを埋める対話アプローチ
日常の承認・称賛に対する世代間意識ギャップとは
組織における日常的な承認や称賛は、従業員のモチベーション維持、エンゲージメント向上、心理的安全性の醸成に不可欠な要素です。しかし、どのような時に、どのような形で、どのくらいの頻度で承認や称賛がなされるべきか、また、どのように受け止められるかについては、世代間で意識や価値観に違いが見られることがあります。
ある世代にとっては「言われなくてもやって当たり前」と捉えられる業務でも、別の世代にとっては「小さな努力や貢献も認めてほしい」という期待があるかもしれません。また、改まった場での表彰を重視する世代もいれば、日々のちょっとした感謝の言葉や、同僚からのカジュアルな称賛を求める世代も存在します。さらに、パブリックな場で認められたいか、個人的に伝えられたいか、といった形式に対する意識も異なります。
このような日常的な承認・称賛に関する世代間ギャップは、従業員間で「正当に評価されていない」「何をすれば喜ばれるか分からない」「伝え方が分からない」といった相互不信や戸惑いを生み出し、チーム内の連携や組織全体の活力を阻害する要因となり得ます。特に、マネジメント層が部下への承認・称賛を適切に行えていない場合、エンゲージメントの低下や離職リスクの上昇につながる可能性も無視できません。
日常的な承認・称賛の世代間ギャップ解消事例
ある中堅サービス業の企業では、複数の世代が混在するチームにおいて、日常的な承認・称賛に関する意識ギャップが顕在化していました。若手社員からは「頑張りが見てもらえない」「褒められることがない」という声が上がる一方で、ベテラン社員からは「昔はこんなことでいちいち褒められなかった」「もっと成果で示すべきだ」という意見も聞かれました。中間管理職は、部下への声かけや評価に戸惑いを感じており、チーム内にどこかぎこちなさが生じていました。この状況が、特に若手層のエンゲージメント低下や、部署を跨いだ連携の遅れにつながっていることが、人事部門へのヒアリングや社内アンケートから明らかになりました。
この課題に対し、人事企画部主導で以下の施策が実施されました。
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意識調査とギャップの可視化: まず、全従業員を対象に、どのような時に、どのような形(例: 口頭、メッセージ、社内SNS、会議での共有など)で承認や称賛を受けたいか、また、どのような時に他者を承認・称賛したいか、といった意識に関する匿名アンケートを実施しました。結果を世代別に分析し、「期待する承認の頻度」「効果的な承認の形式」「承認・称賛のハードル」など、具体的な意識の違いをデータとして経営層および従業員にフィードバックしました。これにより、「ギャップが存在する」という共通認識が醸成されました。
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世代間相互理解ワークショップ: 分析結果に基づき、異世代の社員が複数参加するワークショップを開催しました。ここでは、アンケート結果を共有しつつ、「自分にとって嬉しい承認の言葉や行動は何か」「なぜそれが嬉しいのか」「他世代の反応を見てどう感じるか」などをテーマに、グループ対話を行いました。心理的安全性を確保した環境で、それぞれの価値観や背景にある考え方を共有し合うことで、相互理解を深めました。「自分とは違う考え方があることを知った」「相手が何を求めているか、少し分かった気がする」といった声が多く聞かれました。
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「感謝・称賛」共有ツールの導入と推進: 日々の小さな貢献や感謝をカジュアルに伝え合える、社内SNSの「サンクス機能」や、専用のピアボーナスツールなどを導入しました。導入時には、ツールの利用方法だけでなく、「どのような行動や貢献に対し感謝・称賛を送ると良いか」といったガイドラインを提示し、使い方のデモンストレーションを異世代の社員が行いました。最初は利用に抵抗があった層もいましたが、経営層や管理職が積極的に利用する姿勢を見せたことで、徐々に浸透しました。
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管理職向け「承認・ポジティブフィードバック」研修: 管理職層に対し、部下の行動や成果を具体的に承認する方法、相手に響くポジティブフィードバックの伝え方、1on1ミーティングでの承認を取り入れるポイントなどに関する実践的な研修を実施しました。単なる手法だけでなく、世代ごとの特性を踏まえたコミュニケーションのヒントも提供しました。
施策の結果と得られた学び
これらの施策の結果、社内には緩やかな変化が見られました。定量的な効果としては、従業員エンゲージメントサーベイの「上司からの承認・評価への納得感」「チーム内の協力・称賛」といった項目のスコアが改善傾向を示しました。定性的には、「ありがとう」や「助かります」といった感謝の言葉が飛び交う場面が増え、チーム内の雰囲気が明るくなったという声が聞かれました。特に、感謝・称賛共有ツールの利用により、普段は直接関わりの少ない部署間の従業員からも、仕事の成果や貢献に対する称賛が送られるようになり、従業員同士の横のつながり強化にも繋がりました。
この事例から得られる重要な学びは以下の点です。
- ギャップの存在を認め、可視化すること: 承認・称賛に関する意識は個人的な感覚に左右されやすく、「言わなくてもわかるだろう」と軽視されがちです。まず、アンケートや対話を通じて具体的なギャップの存在をデータや生の声として把握し、組織内で共有することが解消への第一歩となります。
- 「違い」を理解し合う対話の場を設けること: 世代ごとの価値観や期待に優劣はなく、あくまで「違い」であるという前提に立つことが重要です。ワークショップ等を通じて、お互いの背景を理解し合う機会を意図的に設けることで、一方的な押し付けではなく、相互に歩み寄る土壌が生まれます。
- 多様な承認・称賛の形を用意すること: 全員に同じ形の承認・称賛が響くわけではありません。改まった場での表彰、昇給や昇格といった制度的な評価、1on1での丁寧なフィードバック、日々のカジュアルな声かけ、ツールを使ったリアルタイムな感謝など、多様な選択肢を用意し、相手や状況に応じて使い分けること、あるいは従業員自身が選び取れるようにすることが効果的です。
- 管理職の役割の重要性: 管理職が率先して多様な形の承認・称賛を実践し、そのスキルを習得することは、チーム内の心理的安全性を高め、良い文化を醸成する上で不可欠です。
まとめ
日常的な承認・称賛に関する世代間ギャップは、多くの組織で見られる課題であり、見過ごすとエンゲージメントやチームワークに悪影響を及ぼす可能性があります。しかし、この事例が示すように、ギャップの存在を認識し、データに基づいた分析を行い、そして何よりも世代間の「違い」を理解し合うための対話と、多様なニーズに応える具体的な施策を組み合わせることで、このギャップを乗り越えることは十分に可能です。
自社においても、従業員の承認・称賛に対する期待や意識に世代間の違いがないかを確認し、もしギャップが見られるようであれば、本事例や本サイトの他の事例を参考に、対話促進や施策の見直しを検討されてはいかがでしょうか。多様な従業員一人ひとりが認められていると感じられる組織は、結果として高いパフォーマンスを発揮し、持続的な成長を実現できるでしょう。