組織文化への共感ギャップ解消事例:多世代が納得する価値観共有アプローチ
組織文化への共感ギャップ解消事例:多世代が納得する価値観共有アプローチ
組織文化や企業が掲げる価値観への共感は、従業員のエンゲージメントや組織の一体感を高める上で極めて重要です。しかし、働く世代が多様化する中で、これらの要素に対する捉え方や期待に世代間のギャップが生じることがあります。このギャップは、組織のメッセージが特定の世代に響きにくくなったり、共通の目標に対する意識が希薄になったりといった問題を引き起こす可能性があります。
ここでは、組織文化への共感における世代間ギャップを解消し、多世代が納得する形で価値観を共有するアプローチに取り組んだ企業の事例をご紹介します。
事例企業:背景と課題
あるサービス業の企業では、創業以来培われてきた「顧客第一」「品質へのこだわり」といった伝統的な組織文化と、近年入社した若い世代が重視する「社会貢献」「自己成長」「働きがい」といった価値観との間に、認識のズレが生じていました。
具体的には、ベテラン社員は顧客の要望に時間をかけて応えることを重視する一方、若手社員は効率化や新しい技術の導入による短時間での価値提供を優先する傾向が見られました。また、会社の歴史や伝統的な慣習に対する若手社員の関心は低く、「なぜこの仕事をするのか」「会社はどこを目指しているのか」といったパーパスへの共感が希薄になりがちでした。
このギャップは、部署間の連携不足、会議での意見対立、若手社員の離職意向の高まりといった形で顕在化していました。人事企画部には、全社員が共通認識を持ち、組織としての一体感を再醸成することが求められていました。
講じられた施策:多世代参加型ワークショップと対話会
この企業では、一方的な企業文化の押し付けではなく、多世代が主体的に関わることで共通の価値観を再定義・共有するアプローチを選択しました。
- 「会社の羅針盤」再定義プロジェクト: 経営層、中堅層、若手層を含む多様なバックグラウンドを持つ社員からプロジェクトメンバーを選出。会社の歴史を振り返りつつ、現在の社会情勢や社員の意識変化を踏まえ、「私たちの会社が大切にしたいこと」を議論するワークショップを複数回実施しました。これにより、伝統的な価値観の根底にある想いを現代風に表現し直したり、新しい時代の価値観(例: 多様性の尊重、持続可能性)を組み込んだりする作業を行いました。
- 価値観共有対話会: プロジェクトで再定義された「会社の羅針盤」(刷新されたミッション・ビジョン・バリュー)を全社員に浸透させるため、部署横断型の対話会を実施しました。ここでは、各価値観が自分たちの日常業務にどのように結びついているか、また、それぞれの価値観をどのように実践していくかについて、世代を超えて自由に意見交換する機会を設けました。一方的な説明会ではなく、少人数でのグループワークやフリートークを中心とすることで、心理的安全性を確保し、本音で話せる場を意識しました。
- 「私たちのストーリー」発信: 再定義された価値観に基づき、社員一人ひとりが日々の業務で「会社の羅針盤」をどのように体現しているか、具体的なエピソードを社内報やイントラネットで共有しました。特に、世代を超えた社員が互いの取り組みを紹介する形式を取り、共感の輪を広げる工夫をしました。
結果と効果
これらの施策の結果、以下のような効果が見られました。
- 組織文化への共感度向上: 社内アンケートによると、「会社のミッション・ビジョン・バリューに共感できる」と回答した社員の割合が、特に若手層を中心に向上しました。単に知っているだけでなく、「自分ごと」として捉える意識が高まりました。
- 世代間の相互理解促進: 対話会やワークショップを通じて、異なる世代が互いの価値観や仕事に対する考え方を直接理解する機会が増えました。これにより、業務遂行における意図や背景への理解が進み、建設的なコミュニケーションが増加しました。
- エンゲージメントおよび一体感の向上: 共通の価値観を基盤とした対話が増えたことで、組織全体の一体感が高まりました。離職率の低下傾向も見られ、特に若手社員の定着率が改善されました。
- 業務改善への波及: 再定義された価値観を意識することで、業務プロセスや顧客対応方法についても、新しい視点から改善提案が出やすくなりました。伝統と革新のバランスを取りながら、より良いサービス提供につながっています。
事例から得られる学び
この事例から、組織文化や価値観の共有において世代間ギャップを解消するためには、以下の点が重要であることが示唆されます。
- 双方向性と参加型のアプローチ: 一方的に企業文化を「教え込む」のではなく、社員、特に多様な世代がその形成や解釈に主体的に関わる機会を設けることが有効です。対話やワークショップを通じて、自分たちの言葉で価値観を語り合うプロセスが共感を深めます。
- 「なぜ」を共有する: 表面的なスローガンだけでなく、なぜその価値観が重要なのか、会社の歴史や将来の方向性とどのように結びついているのか、その「なぜ」を多角的な視点から共有することが、異なる世代の納得感を得る上で鍵となります。
- 具体性と実践への結びつき: 抽象的な価値観を、日々の業務における具体的な行動やエピソードと結びつけて示すことが重要です。他の社員の実践例を知ることは、自分自身の行動を考える上での参考になります。
- 継続的な対話の場: 組織文化は一度作れば終わりではなく、変化する内外環境に合わせて継続的に共有・アップデートしていく必要があります。定期的な対話の場を設けることで、常に多世代が共通認識を持つ努力が重要です。
- 経営層のコミットメントと実践: 経営層が再定義された価値観を率先して体現し、その重要性を伝え続ける姿勢は、社員の共感を促す上で不可欠です。
まとめ
組織文化や価値観への共感における世代間ギャップは、多くの企業が直面する課題の一つです。この事例は、単なる古い価値観の継承や新しい価値観の導入に留まらず、多世代が共に会社の未来を考え、自分たちの言葉で価値観を語り合うプロセスを経ることが、真の共感と一体感を生み出す可能性を示しています。
人事企画部においては、自社の組織文化が多世代にどのように捉えられているかを定期的に把握し、一方的な伝達ではなく、対話と参加を促す仕組みを企画・実行することが、組織全体のエンゲージメント向上と持続的な成長に繋がる重要な一歩となるでしょう。本事例が、貴社の課題解決や施策立案の参考となれば幸いです。