企業の社会貢献活動(CSR/SDGs)への関与意識ギャップ解消事例:多世代が納得する参加促進アプローチ
企業の社会貢献活動(CSR/SDGs)への関与意識ギャップとその影響
企業の社会的責任(CSR)や持続可能な開発目標(SDGs)への貢献は、現代の企業にとって重要な経営課題の一つとなっています。これらの活動への従業員の関与は、企業文化の醸成、エンゲージメント向上、採用力強化など、多くのメリットをもたらす可能性があります。
しかし、CSRやSDGs活動への意識や関与意欲には、世代間でギャップが見られることがあります。例えば、若年層は社会課題への関心が高く、企業が積極的に社会貢献に取り組むことを重視する傾向がある一方、中高年層は業務外の活動への時間や労力を割くことに抵抗を感じたり、活動の意義や目的について理解が進んでいないケースが見られます。こうした意識のギャップは、社内での分断を生み、活動への参加率の低迷や、特定の世代への負担集中といった課題を引き起こす可能性があります。
本記事では、このような企業の社会貢献活動への関与に関する世代間ギャップをどのように解消し、多世代が納得して積極的に関与できる環境を構築した成功事例をご紹介します。
事例:多世代の関心を引き出すCSR/SDGs活動への参加促進施策
ある製造業のB社では、以前からCSR活動として地域清掃や募金活動を実施していましたが、参加者は特定の部署や有志の社員に限られ、全社的な活動として根付いていませんでした。特に、若手社員からは「もっと企業の事業と連携した社会貢献をしたい」「個人のスキルを活かせる活動はないか」といった意見がある一方で、ベテラン社員からは「業務が忙しい中で、なぜボランティアをしなければならないのか」といった声も聞かれ、世代間での意識ギャップが顕在化していました。
この状況に対し、B社人事企画部は、CSR/SDGs活動への従業員エンゲージメント向上を目的とした新たな施策を立案・実行しました。
施策の具体的な内容
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意識調査と対話会の実施: 全従業員を対象に、CSR/SDGs活動に対する関心度、企業への期待、参加可能な活動形態などに関するアンケートを実施しました。また、各世代の代表者を集めた対話会を開催し、率直な意見交換を通じて世代ごとの価値観や懸念を深く理解する機会を設けました。この結果、若手は「社会貢献を通じた自己成長やスキル活用」、中高年層は「地域貢献や企業への信頼向上への貢献」に関心が高いことが明らかになりました。
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多様な関与方法の設計と提示: 従来の地域清掃に加え、以下のような多様な関与方法を用意しました。
- スキル活用型: 自身の業務スキル(例: IT、デザイン、企画など)を活かしてNPO法人などを支援するプロボノ活動。
- アイデア創出型: 新規の社会貢献アイデアを提案する社内コンテスト。
- 学習・啓発型: SDGsに関する社内セミナーやワークショップへの参加。
- 寄付・募金型: 少額から参加できる定期的な社内募金制度。
- 地域交流型: 地域イベントへの参加や協力(家族参加も推奨)。 これにより、従業員は自身の関心や状況に合わせて無理なく貢献できる選択肢を持つことができました。
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企業戦略との関連性の明確化と発信: CSR/SDGs活動が単なる慈善活動ではなく、企業の持続的な成長やブランドイメージ向上にいかに貢献するのか、経営層からのメッセージを含め、社内報やイントラネットで継続的に発信しました。特に、事業活動と関連性の深いSDGs目標に焦点を当て、従業員自身の業務がどのように社会に貢献しているのかを分かりやすく説明しました。
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活動参加の推奨と見える化: 活動への参加は任意としつつ、積極的に参加を推奨する文化を醸成しました。社内SNSで活動報告を共有したり、朝礼などで参加者の声を紹介したりすることで、貢献を「見える化」しました。また、評価制度には直接組み込まずとも、期末面談などで個人の成長や貢献事例として触れることを奨励しました。
施策の結果と効果
これらの施策の結果、B社では以下のような効果が見られました。
- 参加率の向上: 以前は特定の層に偏っていた活動参加者が、若手からベテランまで幅広い世代に拡大しました。特に、プロボノ活動やSDGsセミナーには若手社員が多く参加し、地域交流型のイベントには家族を持つ中高年層の参加が増加しました。
- 世代間の相互理解促進: 共通の活動を通じて世代間のコミュニケーションが活性化し、業務以外での人柄やスキルの発見により、相互理解と尊敬の念が深まりました。
- 企業へのエンゲージメント向上: 企業の社会貢献への真摯な姿勢を実感した従業員が増え、「自分の会社は社会にとって良いことをしている」という誇りが生まれ、エンゲージメントが高まりました。
- 企業イメージ向上: 社外広報を通じてこれらの活動を発信した結果、採用応募者からの企業イメージ向上にもつながりました。
事例から得られる学び
B社の事例は、企業の社会貢献活動への関与における世代間ギャップを解消するために、以下の点が重要であることを示唆しています。
- 世代ごとのニーズと動機の把握: 一方的な活動参加の呼びかけではなく、まず従業員の意識を理解することが出発点となります。世代によって社会貢献に求めるものや、関与できるリソース(時間、スキル)が異なることを認識し、それぞれのニーズに合わせたアプローチが必要です。
- 多様な関与機会の提供: 全員が同じ方法で貢献する必要はありません。時間がない人向けの少額寄付、スキルを活かしたい人向けのプロボノ、学習意欲のある人向けのセミナーなど、多様な選択肢を用意することで、より多くの従業員が無理なく、かつ自身の強みを活かして関与できます。
- 活動の意義と企業戦略との関連性の明確化: なぜその活動を行うのか、それが企業の事業や社会にどう貢献するのかを丁寧に伝えることで、単なるボランティアではなく、自身の業務や企業の目的と連動した意義ある活動として捉えてもらうことができます。これは特に、業務との切り分けに抵抗を感じる層にとって重要な納得材料となります。
- 非強制的な推奨と貢献の可視化: 参加を強制せず、あくまで推奨し、参加者の貢献を適切に認知・称賛する文化を育むことが、自発的なエンゲージメントにつながります。評価制度への直接的な組み込みは慎重に検討する必要がありますが、日々のコミュニケーションの中で貢献を「見える化」することは有効です。
- 世代間交流の機会創出: CSR/SDGs活動を、普段関わることの少ない他部署や他世代の社員との交流機会と捉えることで、活動自体の意義に加え、副次的なメリットへの期待も参加促進の動機となり得ます。
まとめ
企業の社会貢献活動(CSR/SDGs)への関与意識における世代間ギャップは、組織のエンゲージメントや一体感に影響を与える可能性のある課題です。B社の事例のように、従業員の意識を丁寧に把握し、多様な関与機会を提供し、活動の意義を明確に伝えることで、世代を超えた共感と積極的な参加を促進することが可能です。
人事企画部門は、こうした活動を単なる総務的な業務と捉えるのではなく、組織文化の醸成、多様な人材のエンゲージメント向上、そして企業の持続可能性を高めるための戦略的な取り組みとして位置づけることが重要です。本事例が、貴社のCSR/SDGs活動への従業員エンゲージメントを高めるための施策立案の参考となれば幸いです。