世代間のコンプライアンス・ハラスメント意識ギャップ解消:リスク低減と心理的安全性を高める施策事例
はじめに
現代の多様な組織において、世代間の価値観や経験の違いは、時に組織の活性化を促す一方で、コミュニケーションや規範意識に関するギャップを生じさせる要因ともなり得ます。特に、コンプライアンスやハラスメントに対する意識の差は、組織にとって見過ごせないリスクとなる可能性があります。本記事では、こうした世代間の意識ギャップが組織に与える影響を考察し、その解消に向けた具体的な成功事例をご紹介することで、人事企画担当者の皆様の施策立案の参考となる情報を提供いたします。
世代間のコンプライアンス・ハラスメント意識ギャップとそのリスク
コンプライアンスやハラスメントに関する意識は、社会環境や教育の変化によって世代間で異なる傾向が見られます。例えば、特定の行動に対する「常識」や「許容範囲」の捉え方が世代によって異なることなどが挙げられます。
インターネットやSNSの普及、また近年の労働環境における法改正や社会的な問題提起の活発化は、特に若い世代のコンプライアンスやハラスメントに対する意識を高める要因となっています。一方、上の世代にとっては、過去には問題視されなかった行動が現在ではハラスメントと見なされるようになった、といった変化への対応が求められる場合があります。
このような意識のギャップが放置されると、以下のようなリスクが発生する可能性があります。
- ハラスメントや不正行為の発生リスク増大: 世代間で問題意識が共有されていない場合、意図せずハラスメントを行ってしまったり、不正行為を見過ごしてしまったりする可能性があります。
- 従業員エンゲージメントの低下: 不公平感や不信感が生じ、組織への帰属意識や働きがいの低下を招くことがあります。
- 離職率の増加: 特に意識の高い若い世代が、組織の古い体質や規範意識に失望し、離職を選択するケースが見られます。
- レピュテーションリスク: 内部の問題が外部に漏れた場合、企業のブランドイメージや信頼性が大きく損なわれる可能性があります。
- 訴訟リスク: ハラスメントや不正行為がエスカレートした場合、法的なトラブルに発展するリスクも否定できません。
これらのリスクを回避し、健全な組織運営を維持するためには、世代間の意識ギャップを認識し、解消に向けた積極的な取り組みが不可欠です。
事例紹介:多角的なアプローチで意識ギャップを解消したA社
あるサービス業のA社では、数年前から若手社員からのハラスメントに関する相談が増加傾向にあり、人事部門が危機感を抱いていました。調査の結果、特定の世代間の「コミュニケーションのつもり」と「ハラスメントと感じる」の間にある意識ギャップが大きいことが判明しました。そこで同社は、このギャップ解消に向けた多角的な施策を実施しました。
1. 研修プログラムの見直しと強化
従来の法令遵守を主としたコンプライアンス研修に加え、具体的なハラスメント事例を用いたロールプレイングやグループワークを取り入れた参加型研修を導入しました。特に、世代ごとの価値観やコミュニケーションスタイルの違いに触れ、互いの視点を理解するためのコンテンツを強化しました。管理職層に対しては、部下の多様な価値観を理解し、心理的安全性を確保した上で建設的な対話を促すためのマネジメント研修を実施しました。
2. 従業員間の対話機会の創出
オフサイトミーティングやランチセッションなど、形式ばらない場で世代を超えた従業員が個人的な価値観や経験を語り合う機会を意図的に設けました。また、「〇〇について語る会」のようなテーマ別ワークショップを企画し、普段業務で関わらないメンバー同士がフラットな関係で意見交換できる場を提供しました。これにより、互いの考え方を知り、共感性を高める効果が期待されました。
3. 相談窓口の機能強化と周知徹底
社内相談窓口に加え、外部の専門機関と提携した相談窓口を設置し、相談者が安心して利用できる環境を整備しました。また、匿名での相談も可能な仕組みを導入し、相談しやすい雰囲気の醸成に努めました。これらの窓口の存在や利用方法を、研修時だけでなく社内報やイントラネット等で繰り返し周知徹底しました。
4. 行動指針・ガイドラインの明確化
コンプライアンスおよびハラスメントに関する社内規定を、最新の法令や社会情勢に合わせて見直しました。特に、どのような言動がハラスメントに該当し得るのかを、具体的な事例を交えて分かりやすく記述したガイドラインを作成し、全従業員に配布しました。これにより、各人が自身の行動を客観的に振り返るための判断基準を提供しました。
施策の結果と得られた効果
これらの取り組みの結果、A社では以下のような効果が見られました。
- ハラスメント相談件数の減少: 相談窓口への連絡件数は一時的に増加しましたが、その後は減少傾向に転じました。これは、早期に問題が顕在化し、適切な対処ができたためと考えられます。
- 社内アンケートにおける意識変化: 従業員アンケートの結果、「ハラスメントに関する会社の考え方を理解している」「困ったときに相談できる窓口を知っている」と回答した従業員の割合が、特に若手社員と中堅・ベテラン社員の間で差が縮小しました。
- 心理的安全性の向上: 従業員同士のコミュニケーションが円滑になり、「自分の意見や懸念を自由に発言できる」と感じる従業員の割合が増加しました。これにより、風通しの良い組織文化の醸成が進みました。
- リスク低減: 従業員の規範意識が向上したことで、組織全体としてのコンプライアンスおよびハラスメントに関するリスクが低減されました。
A社の事例は、世代間の意識ギャップに対して、単なるルールの押し付けではなく、教育、対話、環境整備といった多角的なアプローチで取り組むことの重要性を示唆しています。
事例から得られる学び・示唆
A社の事例から、世代間のコンプライアンス・ハラスメント意識ギャップ解消に向けて、以下の点が重要な学びとして挙げられます。
- 課題の正確な把握: 漠然とした問題意識ではなく、アンケートやヒアリング等を通じて、具体的にどのような意識のギャップが存在するのかを正確に把握することが第一歩となります。
- 多角的な施策の実施: 研修だけでなく、対話の機会、相談しやすい環境作り、ガイドラインの明確化など、複数の側面からアプローチすることが効果的です。
- 対話と相互理解の促進: 一方的な情報伝達ではなく、世代を超えた従業員同士が互いの価値観や背景を理解し合うための対話の場を意図的に設けることが、意識のすり合わせに繋がります。
- 心理的安全性の確保: 従業員が安心して疑問を呈したり、相談したりできる雰囲気作りが不可欠です。特に、ハラスメントに関するテーマはデリケートであるため、相談窓口の信頼性向上や匿名相談の導入などが効果を発揮します。
- 継続的な取り組み: 意識や価値観は変化し続けるものであるため、一度きりの施策ではなく、継続的に従業員の意識をモニタリングし、必要に応じて施策を見直すことが重要です。
これらの要素は、他の組織においても応用可能な普遍的な考え方であると言えます。自社の状況に合わせて、これらのアプローチを組み合わせることで、世代間のコンプライアンス・ハラスメント意識ギャップの解消に向けた効果的な施策を立案することができるでしょう。
まとめ
組織における世代間のコンプライアンスやハラスメントに対する意識ギャップは、放置すれば様々なリスクを招きかねない重要な課題です。しかし、このギャップを正確に理解し、教育、対話、環境整備といった多角的なアプローチを通じて解消を図ることで、組織のリスクを低減し、同時に従業員の心理的安全性を高め、より健全で風通しの良い組織文化を醸成することが可能です。
本記事でご紹介したA社の事例が、皆様の組織における世代間ギャップ解消に向けた取り組みの一助となれば幸いです。今後も「ギャップ解消事例集」では、様々な世代間ギャップに関する事例をご紹介してまいります。