社内イベント・交流促進策への意識ギャップ解消事例:多世代が納得する企画・運営アプローチ
社内イベント・交流促進策への意識ギャップとは
組織内のエンゲージメント向上やコミュニケーション活性化のために、多くの企業が社内イベントや交流促進策を実施しています。しかし、近年、従来の画一的なイベントでは参加率が低迷したり、「なぜやるのか」という目的意識に世代間でギャップが生じたりするケースが増加しています。特に、フォーマルな懇親会や慰安旅行などに対して、若手世代が消極的であったり、イベントに求める内容が多様化したりしている一方で、ベテラン世代は継続を望む声があるなど、意識の差が顕在化しています。
このような世代間の意識ギャップを放置すると、イベント企画が形骸化し、多額のコストを投じても本来の目的である組織一体感の醸成や相互理解促進に繋がらないという事態を招く可能性があります。人事部門としては、多様な価値観を持つ社員一人ひとりが「参加したい」「意義がある」と感じられるような、新たなイベント・交流のあり方を模索する必要があります。
世代間意識ギャップが顕在化したA社の事例
ある製造業のA社では、かつて社員旅行や大規模な忘年会などが盛んに行われ、社員間の結束を強める重要な機会となっていました。しかし、ここ数年、若手社員を中心にこれらのイベントへの参加率が明らかに低下傾向にありました。ベテラン社員からは「最近の若い者は付き合いが悪い」「昔はもっと一体感があった」といった声が聞かれる一方、若手社員からは「週末に会社の人と過ごしたくない」「目的が分からない」「二次会への参加強要が負担」といった意見が聞かれ、意識の断絶が生じていました。
人事部門がヒアリングを行った結果、ベテラン層は「親睦を深める」「会社の一員であることの確認」といった情緒的な繋がりや帰属意識をイベントに求める傾向が強いのに対し、若手層は「業務に関連する学びや刺激」「普段話さない人とカジュアルに交流」「自分の時間やライフスタイルを阻害しない」といった、より個人的なメリットや柔軟性を重視していることが明らかになりました。企画側(多くはベテラン層主導)と参加者(特に若手層)の間で、イベントに対する根本的な期待値と価値観に大きな隔たりがあることが、参加率低下の主因と特定されました。
多世代が納得する企画・運営に向けたA社の取り組み
A社ではこの課題に対し、以下の多角的なアプローチを試みました。
- 全社向けニーズ調査と対話: 既存のイベントに対する意識、求める交流の形、参加しやすい形式・時間帯などについて、匿名アンケートと多世代参加型のワークショップを実施しました。ここで得られた「学びの機会とセットになった交流」「業務時間内の短時間イベント」「オンラインでの気軽な交流」といった具体的なニーズを収集しました。
- イベントポートフォリオの多様化: 全員参加必須の単一大規模イベントを廃止し、目的別・形式別の多様なイベントメニューを用意しました。
- 学び×交流: 業務に関連するテーマでの社内勉強会(外部講師を招くことも)、スキル共有を目的としたLT(ライトニングトーク)大会、異部署メンバーとのクロスファンクショナル研修とセットになった交流会。
- カジュアル交流: ランチタイムに特定のテーマで集まるカジュアルトーク会、部署を越えたシャッフルランチ、オンライン懇親ツールを利用した気軽な交流会。
- リフレッシュ×交流: 業務時間内に参加できる短時間のウォーキングイベント、スポーツ大会(チーム参加を基本とする)、ボランティア活動への参加機会提供。
- 参加形式の柔軟化と情報提供: 多くのイベントを業務時間内に実施可能としたり、オンライン参加オプションを用意したりしました。また、各イベントの「目的」と「参加することで得られるもの」を明確に告知し、社員が自分にとって有益なイベントを選べるようにしました。参加は原則任意とし、不参加による不利益が生じないよう配慮しました。
- 社員主導企画の奨励とサポート: 社員が「こんなイベントをやりたい」と提案できる制度を設け、会社が必要な予算や場所、広報などのリソース面でサポートしました。これにより、社員の主体性を引き出し、多様なニーズにきめ細かく対応できるイベントが増加しました。
取り組みの結果と効果
これらの取り組みの結果、A社では社内イベント・交流施策への参加率が全体として向上しました。特に、これまでイベントから遠ざかっていた若手社員の参加が増加し、イベント後のアンケートでは「自分の興味関心に合うイベントが見つかった」「普段関わりのない部署の人と話せて視野が広がった」「会社への見方が少し変わった」といった肯定的な意見が多く寄せられました。
また、目的別の多様なイベントが生まれたことで、世代に関わらず「学びたい」「交流したい」「リフレッシュしたい」といったそれぞれの目的意識に応じて参加するようになり、単なる親睦目的のイベントだけでなく、ナレッジ共有や新しいアイデア創出に繋がる交流も生まれるようになりました。企画への社員の関与が増えたことで、イベントへの当事者意識も高まり、より活発な組織文化の醸成に繋がっています。
事例から得られる学びと示唆
A社の事例は、社内イベント・交流促進において世代間ギャップを解消するためには、以下の点が重要であることを示唆しています。
- ニーズの丁寧な吸い上げ: 企画側の「こうあるべき」という固定観念ではなく、実際に参加する多世代の社員が「何を求めているのか」「何に価値を感じるのか」を、アンケートや対話を通じて丁寧に把握することが全ての始まりです。
- 多様性の受容と選択肢の提供: 全員にフィットする単一のイベントは困難です。様々な目的、形式、時間帯のイベントをポートフォリオとして用意し、社員が自身の興味や状況に合わせて選択できる柔軟性を持たせることが、参加促進に繋がります。
- 目的の明確化と共有: 各イベントがどのような目的を持ち、参加することでどのようなメリットがあるのかを具体的に伝えることで、社員は参加意義を見出しやすくなります。
- 社員の主体性の尊重: 企画段階から社員を巻き込んだり、社員による自発的な企画をサポートしたりすることで、多様なニーズに応えられるだけでなく、イベントそのものへの当事者意識と満足度を高めることができます。
- 参加しやすい環境整備: 強制参加感をなくし、業務時間内の実施やオンラインオプションなど、社員が「参加しやすい」と感じられる物理的・心理的なハードルを下げる配慮が必要です。
まとめ
社内イベントや交流促進策における世代間ギャップは、多様な価値観を持つ現代の組織においては避けて通れない課題です。A社の事例が示すように、このギャップを乗り越えるためには、従来の慣習にとらわれず、多世代のニーズを深く理解し、多様な選択肢を提供し、社員の主体性を引き出す柔軟な企画・運営アプローチが不可欠です。
人事企画部門としては、このような事例を参考に、自社の社員がどのような交流やイベントに価値を感じるのかを改めて問い直し、時代や社員構成の変化に対応した、より効果的な施策を立案・実行していくことが求められます。多様な社員が互いを理解し、繋がりを深められる機会を戦略的に設計することが、組織全体のエンゲージメント向上と活性化に繋がる鍵となります。