キャリア形成への期待ギャップ解消事例:多世代向け育成プログラムの導入効果
世代間のキャリア観と育成ニーズの多様化
現代の組織においては、異なる世代が共に働くことが一般的となり、それぞれの世代が持つ価値観やキャリア形成に対する考え方の違いが顕在化しています。特に、仕事に対するモチベーション、成長の機会への期待、評価やフィードバックの受け止め方において、世代間でのギャップが見られることがあります。これらのギャップは、従業員のエンゲージメント低下や離職、さらには組織全体の活力低下につながる可能性を含んでいます。
人事企画部門においては、こうした世代間の違いを理解し、多様なニーズに応じた人材育成施策を講じることが、組織の持続的な成長にとって重要な課題となっています。本記事では、世代間のキャリア形成に対する期待ギャップを解消するため、多世代向けの育成プログラムを導入した企業の事例をご紹介し、その効果とそこから得られる学びについて考察します。
事例:〇〇株式会社におけるキャリア・育成ギャップへの対応
事例の背景と課題
従業員数約1,000名のサービス業である〇〇株式会社では、近年、若手社員(20代~30代前半)の離職率増加と、部署間の連携におけるミスコミュニケーションが課題となっていました。人事部門の調査によると、若手社員は「早期の成長機会」「多様なスキル習得」「自身のキャリアパスの不透明さ」に対する不満を抱えていることが明らかになりました。一方、ミドル・ベテラン層(30代後半以降)からは、「若手の早期離職に対する戸惑い」「自身の経験や知識の伝承機会の不足」といった声が聞かれました。
従来の育成体系は、年次や階層別の画一的な研修が中心であり、これが多様化する社員のキャリア観や育成ニーズに応えきれていないと判断されました。特に、若手社員が自身の望むスピード感で成長できる機会や、自身のキャリアを主体的に形成していくための支援が不足している状況でした。また、ベテラン社員の豊富な知識や経験が、組織内で十分に共有・活用されていないことも課題でした。
具体的な施策・取り組み
〇〇株式会社の人事企画部は、この世代間ギャップに起因する課題に対し、以下の多世代向け育成施策を企画・導入しました。
-
キャリアデザイン支援の強化:
- 全社員を対象としたキャリアデザイン研修を導入。自身のキャリアパスについて考える機会を提供し、人事部門や上司との対話を通じて具体的な目標設定を支援しました。
- 社内公募制度を活性化し、部署を越えた異動や新しい業務への挑戦機会を増加させました。特に若手社員に対し、様々な経験を通じてキャリアを探索する機会を提供しました。
-
多角的なスキルアッププログラム:
- 従来の画一的な研修に加え、オンライン学習プラットフォームを導入し、社員が興味や必要に応じて自由にスキルを学べる環境を整備しました。これにより、若手社員の「多様なスキル習得」ニーズに応えました。
- メンター制度を刷新。経験豊富なベテラン社員が若手社員に対し、キャリアや業務に関する相談に乗る仕組みを強化しました。これにより、ベテラン社員には自身の経験を活かす機会を提供し、若手社員には実践的なアドバイスを得られる機会を創出しました。
-
世代間交流と相互理解の促進:
- 部署や世代を越えた交流を目的とした社内イベント(例: ランチミーティング、ワークショップ)を定期的に開催しました。
- ベテラン社員によるナレッジ共有会を実施し、長年の経験で培われた専門知識や業務ノウハウを若手社員に伝承する機会を設けました。これは、ベテラン社員の貢献意欲向上にもつながりました。
結果と効果
これらの施策導入から1年後、以下のような効果が見られました。
- 若手社員のエンゲージメント向上: キャリアパスの可視化と多様な学習機会により、自身の成長に対する手応えを感じる若手社員が増加しました。導入前のアンケートと比較し、「会社でのキャリアパスに希望が持てる」と回答した若手社員の割合が15ポイント増加しました。
- 離職率の低下: 特に若手社員の離職率が、施策導入前の年間平均値と比較して約5ポイント低下しました。
- 世代間の相互理解促進: メンター制度やナレッジ共有会、交流イベントを通じて、異なる世代間のコミュニケーションが増加し、相互理解が進みました。部署間の連携においても、以前に比べ円滑なコミュニケーションが図れるようになったという声が多く聞かれました。
- ベテラン社員の貢献意識向上: 自身の経験や知識が組織内で評価・活用される機会が増えたことで、ベテラン社員のモチベーションと組織への貢献意識が高まりました。
事例から得られる学びと示唆
〇〇株式会社の事例は、世代間ギャップに起因する課題に対し、多角的なアプローチで対応することの重要性を示しています。この事例から、人事企画部門の皆様が自社の状況に照らし合わせて考えるべき点はいくつかあります。
- 世代間の「声」を聴くことの重要性: 画一的な施策ではなく、まず各世代が何を求めているのか、どのような課題を感じているのかを具体的に把握するための丁寧なヒアリングや調査が不可欠です。
- 柔軟性と多様性のある施策設計: 特定の世代に偏るのではなく、様々なキャリア観や学習スタイルを持つ全従業員にとって、何らかの形でメリットや成長機会を提供できる柔軟な制度設計が効果的です。オンライン学習や社内公募制度など、自己主導型の選択肢を増やすことが、特に若手層には響く可能性があります。
- 相互理解と協力の機会創出: 育成施策は単にスキルアップを目的とするだけでなく、異なる世代が互いの価値観や強みを理解し、協力して働く機会を創出する側面も持つべきです。メンター制度やナレッジ共有は、上下の関係だけでなく、水平的な連携や信頼関係構築にも寄与します。
- ベテラン層の経験を活かす視点: 若手育成だけでなく、ベテラン社員の持つ豊富な経験や専門知識を組織内でどのように活かしていくかという視点も重要です。彼らが持つ知識を形式知として共有したり、メンターとして役割を担ってもらったりすることで、組織全体の知の循環を促進し、同時にベテラン層のモチベーション維持にもつながります。
まとめ
世代間のキャリア形成に対する期待ギャップは、多くの組織で見られる課題です。〇〇株式会社の事例のように、この課題に対して各世代のニーズを丁寧に汲み取り、キャリアデザイン支援、多様なスキルアップ機会、そして世代間交流を促進する施策を組み合わせることで、従業員エンゲージメントの向上、離職率の低下、組織全体の活性化といった具体的な成果を上げることが可能です。
人事企画部門の皆様におかれましては、自社の従業員の声を聴き、世代間の多様なニーズに応える柔軟で包括的な育成施策を検討されることを推奨いたします。本事例が、貴社の世代間ギャップ解消に向けた取り組みの一助となれば幸いです。