福利厚生への期待ギャップ解消事例:多世代が納得する多様な選択肢提供
世代間で異なる福利厚生への期待、組織への影響
福利厚生は、従業員の満足度やエンゲージメント、定着率に大きく影響する重要な要素です。しかし、従業員の価値観やライフステージが多様化する中で、提供する福利厚生に対する期待は世代によって異なり、これが組織内の新たなギャップを生む原因となることがあります。特定の世代には魅力的な制度も、別の世代には響かず、「なぜ自分たちには必要な制度がないのか」といった不満につながる可能性も考えられます。
人事企画部門においては、こうした世代間の福利厚生への期待ギャップを把握し、いかにして多世代のニーズを満たす制度を設計・運用するかが課題となっています。本記事では、この福利厚生における世代間ギャップを解消し、多世代の従業員が納得できる制度を構築した企業の事例をご紹介します。
事例企業の背景と課題:一律制度の限界
ある中堅サービス企業では、長年にわたり画一的な福利厚生制度を運用していました。住宅手当、家族手当、退職金制度などが中心であり、これらの制度は特定の世代やライフステージの従業員には一定の支持を得ていました。しかし、近年入社する若手層や、共働き、育児・介護に関わる従業員からは、「自分たちの働き方やライフスタイルに合わない」「必要性を感じない」といった声が聞かれるようになりました。
具体的には、リモートワークや柔軟な勤務体系を志向する若手層からは、通勤やオフィスに関連する手当への関心が薄い一方、自己啓発やスキルアップ、心身のリフレッシュに関する支援へのニーズが高い傾向が見られました。また、育児や介護を担うミドル・ベテラン層からは、休暇制度の柔軟化や金銭的な支援、相談窓口の設置などを求める声がありました。
こうした多様なニーズに対し、一律の制度では対応しきれず、従業員間の不公平感や、福利厚生に対する関心の低下、結果としてエンゲージメントの停滞といった課題が顕在化していました。
講じられた施策:ニーズ把握と柔軟な選択肢の提供
この企業は、福利厚生への期待ギャップが組織全体の活力低下につながると判断し、以下の施策を講じました。
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従業員ニーズの徹底的な把握:
- 全従業員を対象とした詳細な福利厚生に関するアンケートを実施。既存制度への満足度、必要とする福利厚生、希望する支援内容などを、年齢、勤続年数、ライフステージ別に分析しました。
- 部署横断のフォーカスグループインタビューを実施し、アンケートでは拾いきれない具体的な声や潜在的なニーズ、制度への期待や不満を深掘りしました。特に若手層、中堅層、ベテラン層、育児・介護中の従業員など、属性別のグループで実施し、世代間の価値観の違いを浮き彫りにしました。
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カフェテリアプランの導入検討:
- 把握した多様なニーズに応えるため、カフェテリアプラン形式での福利厚生提供を検討しました。従業員に一定のポイントを付与し、そのポイントの範囲内で、事前に設定された複数の福利厚生メニューの中から自分の必要に応じて選択できるようにする制度です。
- メニューには、従来の住宅関連や貯蓄関連に加え、自己啓発(語学、資格取得支援)、健康増進(フィットネス補助)、育児・介護支援、旅行・レジャー補助、ボランティア休暇積立など、多様な選択肢を含める方向で設計を進めました。これにより、従業員は自身のライフステージや価値観に合った福利厚生を享受できる機会が得られます。
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既存制度の見直しと広報強化:
- 一律の福利厚生制度についても、実態に合わなくなっている部分がないか見直しを行いました。例えば、育児・介護休業制度については、法改正に対応するだけでなく、取得しやすい社内文化の醸成や、代替要員確保の仕組みづくりと合わせて周知徹底しました。
- 福利厚生制度に関する情報を、社内ポータルサイト、説明会、チームミーティングなど、複数のチャネルを通じて積極的に発信しました。特に、各制度の目的や利用方法、どのような従業員がメリットを感じるのかを具体的に伝えることで、制度への理解促進と関心向上を図りました。
結果と効果:多様なニーズへの対応とエンゲージメント向上
これらの施策の結果、福利厚生制度に対する従業員の満足度は全体的に向上しました。特に、これまで制度の恩恵を感じにくかった若手層や、特定のライフステージにある従業員からの肯定的な意見が増加しました。
- 福利厚生に関する従業員アンケートの満足度スコアが、施策導入前に比べて15%向上しました。
- カフェテリアプランの利用状況を分析した結果、若手層は自己啓発やヘルスケア関連のメニューを、ミドル・ベテラン層は旅行や育児・介護関連のメニューを選択する傾向が見られ、多様なニーズに対応できていることが確認されました。
- 福利厚生制度への関心が高まり、制度に関する質問や利用申請が増加しました。
- 「会社が従業員の多様な働き方やライフスタイルを理解し、支援しようとしている」という肯定的な認識が広がり、組織への信頼感やエンゲージメントの向上に繋がったという定性的な声が多く寄せられました。
事例から得られる学び:ニーズ把握と柔軟性が鍵
この事例から、人事企画部門が世代間の福利厚生への期待ギャップ解消に取り組む上で、いくつかの重要な学びが得られます。
- 多様なニーズの正確な把握: 一律の制度設計では対応できない現代において、従業員の多様なニーズ、特に世代やライフステージによる違いを正確に把握することが出発点となります。アンケートだけでなく、対話を通じて潜在的な声を引き出す工夫も重要です。
- 柔軟性と選択肢の提供: カフェテリアプランのような、従業員自身が選択できる柔軟な制度は、多様なニーズに応える有効な手段の一つです。すべての従業員が「自分にとって必要な福利厚生がある」と感じられる設計が重要です。
- 積極的な情報提供とコミュニケーション: 優れた制度も、その内容や価値が伝わらなければ効果を発揮しません。多角的なコミュニケーションチャネルを通じて、制度の意義や利用方法を分かりやすく伝える努力が必要です。
- 制度の見直しと継続的な改善: 社会情勢や従業員の構成、価値観は常に変化します。一度制度を整えたからといって終わりではなく、定期的に見直し、従業員のリアルな声を聞きながら継続的に改善していく姿勢が求められます。
まとめ
福利厚生に対する世代間ギャップは、従業員の満足度や組織へのエンゲージメントに直結する無視できない課題です。今回ご紹介した事例のように、従業員の多様なニーズを丁寧に把握し、一律ではない柔軟な選択肢を提供することで、多世代が「自分事」として捉えられる福利厚生制度の構築は可能です。
人事企画部門の皆様におかれましては、自社の従業員がどのような福利厚生を求めているのか、世代間でどのような違いがあるのかを改めて分析し、多様な価値観に応えるための制度設計やコミュニケーションのあり方を見直す一助として、本事例をご参考にしていただければ幸いです。従業員一人ひとりが活力を持ち、安心して働ける環境づくりは、組織全体の持続的な成長に繋がります。