承認・評価の基準・方法に対する世代間意識ギャップ解消事例:多様な承認文化と納得感醸成のアプローチ
承認・評価の基準・方法に潜む世代間ギャップとは
組織において、社員のモチベーションやエンゲージメントは、承認や評価のあり方と深く関わっています。しかし、この「承認・評価」に対する期待や捉え方にも、世代間での意識ギャップが見られることがあります。特定の世代は結果に基づいた定量的な評価や昇進・昇格を重視する傾向が強いかもしれません。一方で、別の世代は日々のプロセスにおける貢献や、成果に至るまでの努力、あるいは多様なスキルや専門性への承認、同僚からの感謝といった、より定性的で即時性の高い承認を求める傾向がある場合があります。
このような世代間での意識のずれは、「正当に評価されていない」「何をすれば評価されるのか分からない」「頑張りが見られていない」といった不満につながり、ひいては組織全体の士気低下や離職の一因となる可能性があります。特に人事企画部としては、全社員が納得感を持って働ける評価・承認制度や文化の構築が重要な課題となります。
本記事では、承認・評価の基準・方法における世代間意識ギャップを解消し、組織の活性化につなげた企業の事例をご紹介し、そこから得られる学びについて考察します。
事例:多様な承認と評価プロセス改善でギャップを解消したA社
事例の背景・課題
従業員数約500名、サービス業のA社では、近年、若手社員を中心にエンゲージメントサーベイの「評価への納得感」「日々の仕事における承認機会」に関する項目でスコアの低下が見られました。ヒアリングを進めると、若手社員からは「大きな成果を出さないと評価されない」「プロセスでの工夫が見てもらえない」「上司からのフィードバックが少ない」といった声が多く聞かれました。
一方、ベテラン社員からは「若手は結果を出す前から頻繁な承認を求める」「従来の評価体系(年功や役職)が崩れることへの懸念」といった意見があり、承認・評価に対する世代間の意識ギャップが明らかになりました。従来の評価制度は、半期に一度の業績評価と、年功要素を一定程度含む昇給・昇格が中心であり、成果が出るまでの過程や日々の貢献、多様なスキル発揮といった点が評価されにくい構造になっていました。
実施された施策・取り組み
A社人事部では、この世代間ギャップを解消し、多様な価値観に対応できる承認・評価文化を醸成するために、以下の施策を複合的に実施しました。
- 多角的な承認機会の導入:
- ピアボーナス制度の試験導入: チームや部署内で、日々の貢献や感謝をポイントとして送り合えるWebシステムを導入。ポイントは少額のギフトや寄付に交換可能としました。
- 社内SNSでの「Good Job」文化促進: 活躍事例や感謝を気軽に投稿・共有できる社内SNSの活用を推進。経営層やマネージャーも積極的に投稿することで、全社的な承認文化を醸成しました。
- プロジェクトごとのミニ表彰: 短期プロジェクトや特定の取り組みに対して、完了時に成果や貢献を労うミニ表彰を実施。
- 目標設定・評価プロセスの見直し:
- 目標設定の多様化: 半期目標に加え、個人が設定するストレッチ目標やスキルアップ目標を導入し、成果だけでなく成長プロセスも評価対象とすることを明確化。
- 中間レビューの強化: 上司との1on1ミーティングにおいて、半期の中間地点での進捗確認だけでなく、日々の業務における困りごとや、プロセスでの工夫点、貢献などを共有・承認する時間を意識的に確保するよう全マネージャーに奨励しました。
- 評価者(マネージャー層)向け研修の実施:
- 「世代別の価値観とコミュニケーション」に関する研修を実施。各世代が仕事に求めること、効果的なフィードバックや承認の方法について理解を深めました。
- 多様な評価項目(成果、プロセス、貢献、スキル発揮、バリュー体現など)に基づいた評価方法や、部下との評価面談における対話の重要性に関するスキルアップ研修を行いました。
- 評価に関する対話機会の促進:
- 目標設定時や評価面談時に、期待する役割や評価基準について丁寧に説明し、社員の疑問や不安を解消する対話の時間を設けることを徹底しました。
結果・効果
これらの施策の結果、A社では承認・評価に関する世代間意識ギャップの解消に一定の効果が見られました。
- エンゲージメントサーベイの「評価への納得感」や「承認機会」に関する項目で、若手社員を含む全社的なスコアが向上しました。
- ピアボーナス制度や社内SNSでの「Good Job」投稿が活性化し、社員間の相互承認が増加。ポジティブなコミュニケーションが増え、心理的安全性の向上につながりました。
- 目標設定・評価プロセスの見直しにより、社員が自身の成長や貢献をより具体的に認識できるようになり、モチベーション向上に寄与しました。
- マネージャー層の評価・フィードバックスキルが向上し、部下一人ひとりの状況に合わせた関わり方ができるようになりました。
- 結果として、早期離職率の抑制にも一定の効果が見られました。
事例から得られる学び・示唆
A社の事例からは、承認・評価に関する世代間ギャップを解消し、組織の活性化につなげるための重要な学びが得られます。
- 承認・評価は「制度」だけでなく「文化」として捉える: 制度改定だけでは不十分であり、日々のコミュニケーションの中でポジティブな承認を伝え合う文化を醸成することが、特に多様な価値観を持つ世代にとって重要です。ピアボーナスや社内SNS活用はその有効な手段となり得ます。
- 評価の基準・方法を多様化し、透明性を高める: 成果だけでなく、プロセスや日々の貢献、スキルの発揮なども評価対象とすることで、多様な働き方や価値観を持つ社員が「正当に評価されている」と感じやすくなります。評価項目や期待値を明確に伝え、対話を通じて納得感を高めるプロセスも不可欠です。
- マネージャーの役割が鍵となる: 世代間ギャップを理解し、多様なメンバーへの効果的なフィードバックや承認を行えるマネージャーの育成は、施策の成否を大きく左右します。評価者研修は継続的に実施すべき重要な取り組みです。
- 対話による期待値調整と認識合わせ: 評価に対する期待や価値観は世代によって異なります。目標設定時や日々の1on1、評価面談といった場を活用し、評価の考え方や期待する行動について丁寧に説明し、社員の疑問や不安に寄り添う対話を行うことが、ギャップの予防と解消につながります。
まとめ
承認・評価に関する世代間意識ギャップは、多くの組織で見られる潜在的な課題です。このギャップを放置することは、社員のエンゲージメント低下や離職リスクを高める可能性があります。
A社の事例が示すように、多様な承認機会の導入、評価プロセスの見直し、マネージャー層の育成、そして対話を通じた丁寧なコミュニケーションといった多角的なアプローチを組み合わせることで、世代を超えて多くの社員が納得感を持って仕事に取り組める環境を整備することが可能です。
自社の承認・評価制度や日々のコミュニケーションにおいて、世代間での意識のずれが生じていないか、改めて見直してみてはいかがでしょうか。本事例が、貴社の組織における世代間ギャップ解消に向けた施策立案の一助となれば幸いです。